金融混乱の察知と今後の世界

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2008年10月30日

  • 佐藤 清一郎

リスク感覚が麻痺すると大変なことが起きてしまう。かつての日本の不動産バブル、1997年のアジア通貨危機、2000年頃のITバブル、そして今回の金融危機などはこの典型である。危機的な状況が、幾度となく繰り返される現実を見るにつけ、経済や金融が暴走することを阻止することの困難さを実感する。

経済や金融の暴走を阻止するのは至難の業だが、暴走しそうな兆候を察知するのは、それ程、難しくない。その鍵は、経済と金融の規模倍率にある。一見単純な数値だが、意味するところは大きい。何故なら、信用創造の範囲は、実体経済の成長力に規定されるため、経済・金融倍率の数値が動ける範囲も、自ずと決まってくるからである。

過去10年間の話で言えば、経済・金融倍率は、大体、3.3~4.8倍で推移している。金融混乱が発生するタイミングでは4倍半ばを越え、一方、金融崩壊といわれる状況では3倍前半となっている。この数値は、データ分析期間や今後の金融技術向上などの問題もあり、単純には言えない面もあるが、少なくとも、金融市場動向を見る上での重要な指標ではある。今回のサブプライムローン金融危機でも、この数値は最大で4倍半ばを超えている可能性は高い。今後、信用収縮の結果、この数値は4倍を下回ってくると見られるが、その場合の下値の目処は3倍半ばであろう。

以上のことはリスク管理指標として頭の中に覚えておくとして、今後の金融市場回復の目玉は何か。悲観論が蔓延る中、本当に回復するのかとの疑問もわくが、危機が繰り返されることの裏側は、回復が繰り返されるということである。

今後の回復シナリオとしては、これまでのような、情報通信技術や証券化といった、いわば、テーマ性やテクニックではなくて、より原始的な、新興国地域の経済成長力にあると考えている。新興地域は、先進国と比較すると、成長に必要なインフラ整備を含め、まだまだ成長しなければいけない分野が数多く存在する。IMFの世界経済成長見通しでも、先進国が、今後1、2年、2%以下の経済成長となる一方で、新興国は、7%弱の成長は確保するとしている。もちろん、新興国地域の成長は、先進国サイドの輸入なしでは難しいので、世界経済の回復局面で先進国が除外されるわけではない。経済活動の重点が、より新興国地域にシフトするということである。

先進国もこの点を再確認し、先端金融技術なども駆使しながら、この地域への成長マネーを安定して供給できるシステムを構築することが重要である。それが世界経済全体を回復させ、先進国の成長にも貢献していくことになる。

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