逃げるマネー、縮小するコモディティ市場

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2008年10月29日

  • 山田 雪乃

コモディティ市場が大きく縮小している。WTIは7月3日に145.29ドルの史上最高値をつけた後、7月半ば以降一本調子で調整し、10月27日には63.22ドルと半値以下へ下落した。価格調整と建玉の減少により、米国の原油先物市場は7月上旬のピークから35%程度の規模へ縮小している(10月21日時点)。

米リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけに世界的な金融危機が広がり、コモディティ市場に大きな変化が起きている。元になる資金の何十倍もの資産運用を可能とした「レバレッジ」が効かない世界が広がったことだ。コモディティ市場の強気相場を牽引してきたヘッジファンドも、商品市況や新興市場の悪化によって損失を計上している。レバレッジを駆使したヘッジファンドが撤退を迫られれば、投機的な動きは弱まっていくだろう。金融工学を駆使したビジネスから伝統的なビジネススタイルへ戻ることにより、低レバレッジで資金が運用される、小さな金融市場になってしまった。

コモディティ市場はこれまで投資マネーが大量に流入することによって大幅にその水準が押し上げられ、投資マネーの流出によって大幅に水準を下げてきた。投資マネーが、全く需給を見なかったわけではない。むしろ、価格上昇局面では、需給の逼迫を過剰に織り込み、逆に、世界景気の悪化懸念が急速に強まると、需要の鈍化を過剰に織り込んで、価格調整した。これまでのコモディティ市場は、投資マネーの存在によってボラティリティが高い相場を展開してきたといえよう。その投資マネーが再びコモディティ市場に戻ってくるには、世界的に信用市場の機能が正常化してくる必要がある。

さらに、市場の注目点が、金融危機から実体経済へシフトしつつあることも大きな変化だ。金融危機の問題が片付いたとしても、世界景気の悪化懸念を払拭するような答えは出ていない。世界景気への懸念が続く中では、コモディティ市場も株式市場と一蓮托生であり、コモディティか株かという逆相関関係は形成されにくいだろう。

コモディティ価格は8~10年程度のサイクルで推移しており、今回の上昇相場が2002年頃から始まり2008年にピークを打ったとすれば、ボトムは2010年から2011年頃になるだろう。引き続き、コモディティごとに異なる資源需要の景気敏感度と需給調整スピードによって、コモディティ間のパフォーマンスに違いが出てくるだろう。

今後しばらくは、投資マネーが入りにくく、規模が縮小した市場において、より需給を正確に反映した相場が展開されることになるだろう。財源豊かな中国による景気対策の効果が発揮されれば、コモディティ市場の早期回復に繋がっていくのではないかと注目している。

米先物市場の規模

米先物市場の規模

(出所)CFTCよりDIR作成
(注)市場規模=建て玉×取引単位×先物価

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