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金融機関資産の増大から今般の金融危機を考える

2008年10月28日

柏崎 重人

アメリカ発の金融危機がウィルスのように広がり、今や世界恐慌一歩手前の様相を呈している。未曾有の信用収縮過程においては、全ての資産価格が下落すると言われるが、実体経済とはかけ離れた「金融の暴走」の巻き戻し現象をここで改めて確認したい。よく指摘されるように今般の危機の背景には、急速に膨らんだ信用、正に「信用膨張」と呼ぶに相応しい状況が存在する。実際、先進5カ国(日・米・独・仏・英)における金融機関総資産 の名目GDP比の推移を見ると、日本の除く全ての国でその比率は趨勢的な上昇傾向にある(特に各国とも9.11同時多発テロ以降、2002年から伸びが加速している)。実体経済(名目GDP)に対する適正な金融資産規模を特定することは困難を極めるが、こうした金融資産の膨張傾向は今般の危機と重要な関係にあることは間違いないだろう。

金融機関総資産の対名目GDP比(推移)

(出所)各国資金循環統計より大和総研作成

各国「資金循環勘定」でいう金融機関(原則として中央銀行を除く:預金取扱機関 + 年金・保険 + その他金融機関)の総資産規模で計算。

例えばアメリカでは、1995年の2.8倍から2007年には4.4倍へと名目GDPの1.6倍分の金融資産を膨らませている。アメリカは証券市場大国であり、預金取扱機関の総資産は同期間に名目GDP比0.8倍⇒1.0倍と微増に留まるが、その他金融機関(住宅ローン会社、投資銀行、各種ファンド等)が同1.0倍⇒2.2倍へ急速な膨張を見せている。昨今、問題視されている投資銀行の総資産拡大や銀行貸出しのオフバランス化金融商品の購入拡大などが裏付けられるが、その増加額はこの12年間で16.6兆ドルと計算可能だ。株式時価総額の上昇等もあるのでこれが全て「信用膨張」とは言えないものの、IMFの統計を基にすると民間負債証券と銀行貸出の合計は、2007年までの5年間に名目GDPの0.55倍分(7.6兆ドル)増加して34.5兆ドルに達している。過去5年間に限定すれば、この7.6兆ドルが膨張した信用で、このうちどの程度が収縮(又は価値低下)するかが問題の大きさということになろう。

一方、日本の金融機関総資産は、2007年時点で12年前とほぼ同じ比率(対名目GDP比5.3倍)に留まっている。この12年間に信用膨張やバブルという状況は、全体として起きていない可能性が裏付けられる。しかし、問題がないと一概に言うことはできない。というのも、そもそも同比率が95年時点で5倍超と高水準にあり、それ以前の期間に問題が生じている可能性が指摘できるためだ。過去に遡ると1979年から1987年にかけて2.9倍⇒5.0倍へと名目GDPの2年分が急増した増加した事実は、バブル崩壊後の実体経済の低迷と無縁ではなさそうだ。

それにしても驚くべきは、主要欧州諸国における金融資産の膨張が凄まじかったことだろう。イギリスは国際金融センター・ロンドンを抱える事情から、特に金融資産規模の水準が高く、拡大規模も大きい(この12年間に対名目GDP比4.2倍⇒8.1倍)。中東や新興諸国をはじめ世界中から資本を集め、それを海外に投資する活動を加速させたと考えられる。外貨投資の中心は米ドル・ユーロ建ての双方で、アメリカや欧州諸国に多額の資金を振り向けていたことが推察できる。仮に預金取扱機関の外貨建て預金(負債項目)を対外投資分として控除してみると、金融資産規模は大きく低下するものの、それでも同2.1⇒4.4倍とアメリカ以上の拡大を記録している。

さらに大陸欧州のフランス(対名目GDP比3.0倍⇒5.6倍)やドイツ(同2.4倍⇒4.2倍)でも金融資産拡大は著しい。特にフランスの預金取扱機関だけで同2.2倍⇒3.5倍と急速な資産膨張が目を引く。金融危機への対処で活発な動きが目に付くフランス大統領だが、自国の事情を考えれば十分に頷ける話なのかもしれない。

なお、EU諸国のうち金融資産膨張が相対的に激しかった国には、この他にアイルランド、スペイン、デンマーク、ベルギーなどがある。また、東欧諸国では自国の金融機関の総資産は余り増大していないが、輸出主導(資本輸出)で経済成長を目論むアジア諸国とは異なり、対内資本流入を経済発展の基礎としてきた。それだけに、近隣西欧諸国の金融危機の影響を大きく受け易い状況にある。

今般の金融危機がアメリカ発なのは事実だが、欧州における問題の大きさはアメリカの比ではない可能性がある。

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