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仮想化が実現する、IT「選択の自由」の時代

2008年10月21日

田中 宏太郎

ちょうど今月、IT市場調査会社の米国ガートナーが開催した「Gartner Symposium/ITxpo 2008」にて、同社が2009年に注目する技術として「仮想化」を1位に挙げたように、昨今、IT業界では「仮想化」という言葉がごく普通に使われ、またシステムの構築事例の紹介も多くなった。

仮想化の対象は、サーバ、ネットワーク、ストレージ、デスクトップ等、多分野にわたる。サーバの仮想化は、元はと言えばメインフレームで開発された技術であるが、昨今ではPCサーバまで普及している。ネットワークのVLAN、ストレージのSANは、まったく通常の技術となった。
デスクトップで言えば、弊社が所属する大和証券グループで行われた、新本店移転を契機にPCから切り変えたシンクライアントへの移行が一例となろう。シンクライアントには複数の実現方法があるが、大和証券グループは仮想PC方式を採用した。仮想PC方式の実処理が行われるブレードサーバー内では、ハイパーパイザー上に仮想PCが数十台構成されているが、能力的には大ざっぱに言ってPC10台程度の能力しか保持していない。しかし実用上全く問題がなく、いかにこれまで単独・専用に持つことが無駄だったのかを痛感した。

しかし、PCのように単独・専用にリソースを用意しておくことが、一方的に悪かったわけではない。やはり、機器選定上は、ピークに必要な能力に合わせるしかなかったのだから。問題の本質は、そんなに使っていない機器等から、リソースを借りられない・補い合えないことである。この問題が、仮想化という技術を用いてリソースを集約化することで、解決可能になったのだ。

◆             ◆             ◆

仮想化とは『サーバ等のITリソースの物理的な単位を隠蔽し、利用したい論理的な単位として提供する技術群』と定義できると思うが、私はリソースを利用する側から、仮想化を『ITリソースを、容易にかつ柔軟に、“他”目的に利用・転用する技術群』だと考えている (「多目的」でないことに注意)。

一般に、仮想化の効果には以下がある。

  • 1) システムリソースの集約・統合による利用効率の向上
  • 2) リソース管理負担の軽減
  • 3) 開発環境の早期構築、本番環境の緊急拡張
  • 4) ライフサイクルギャップへの対処(旧OSの最新H/Wでの稼働等)
  • 5) 災害対策への貢献(DRサイト構築が相対的に容易)
  • 6) グリーンIT実現への貢献

上記1)は平たく言えば、必要と思われる量(論理)の合計が、実際の量の合計(物理)よりも多くて良いということだ。 例えば、シンクライアント以外の例をあげれば、オンライン処理用サーバとバッチ処理用サーバとを集約化・仮想化すれば、必要なサーバ台数は削減できる。具体的には、物理的に1台のサーバ上に論理的なサーバを2台構築し、オンライン処理用とバッチ処理用とする。そして、昼はオンライン処理用サーバが物理的な1台の80%の能力を占有可能、逆に夜はバッチ処理用サーバが90%の能力を占有可能等と設定する。
そうすると「一台のサーバ内で、オンライン処理とバッチ処理を稼動させたとしても、ほぼ同時に稼動しないのだから同じ効果があるのでは?」と思う方がいるかもしれない。一面ではまったくそのとおりであるが、その前提としてOS等が同じでなければならないし、同じだとしても能力以外の例えば2)を考慮した際、OS区画が分かれているメリットは、運用・保守業務上、計り知れないものがある。

これに加えて『転用』には、時間軸の観点も必要だ。
通常、サーバ等は5年間で償却するであろう。しかし企業のスピード感覚は、中期経営計画に見られるように速くなった。各事業の貢献度合を3年間程度で見直して、事業の拡大や縮小を判断する。その事業の縮小の判断が行われた場合、ピークに必要な能力を意識して導入したその事業専用の機器・構成はいったいどうなるのであろうか。 おそらく大半が、専用機器・専用構成ゆえに転用できず、かといってビジネスにも貢献せず、ランニングコストが発生し続け、ひたすら償却完了を待つことになると思われる。

『転用』の逆もある。安定稼働して、着実に日々ビジネスに貢献しているシステムも多い。しかしある期間を過ぎると、バージョンアップや保守切れにより、半ば強制的にシステム更改を迫られる。なぜ『長期間の利用』ができないのか。なぜ新しいハードウェア、ソフトウェアに買い替えなければならないのか(なおこの答えのひとつが上記4)である)。

今や企業に、このような“非効率”は許されないのではないだろうか。

◆             ◆             ◆

一度、ベンダーは以下の日常的な事例と、自社の販売実態を比較し、よく考えてみてほしいと思う。

  • 通勤目的に自転車を利用していたが、転居により駅に近くなり、徒歩に変えた。そこで自転車はレジャー用に用いることにした。なぜITの世界では、往々にして、レジャー用に別の“自転車”が必要となるのか。
  • 乗用車は6~7年間は普通に使え、状態が良ければ10年間以上使い続けることも決して難しくない。またけっこうな期間、相当種類の旧車種群と新車種が共存している。なぜITの世界では、長く使い続けることが難しいのか。
  • 冷蔵庫は、メーカーや機種を変えても、食物を保存するという目的は達成できる。なぜITの世界では、サーバやOSの乗り換えが難しく、一度決めてしまうとなかなかメーカーや製品を変えにくいのか。
  • 家を建ててから年数がたち、屋根の修理や壁の塗り替えを行った。なぜITの世界では、家を丸ごと買い換えるようなことが多いのか(なぜ追加したい新機能だけを旧バージョンに足すことができず、すべてを入替えるバージョンアップになってしまうのか)。

私もIT業界に身を置く者であり、同様にはなかなかいかないことも十分承知している。ITの歴史がわずか半世紀強で他業種ほど成熟度が足りない、また技術革新が速くて標準化が追いつかない等、特殊要因も多かろう。それにしても、である。
上記の日常的な事例とITとの決定的な差異は、上記の日常的な事例がメーカー(≒ITベンダー)の都合ではなく、消費者(≒ユーザ)の都合で決められる、ということだろう。ITの世界では、ユーザにとって『長期間の利用』・『転用』の自由が、まだまだ十分でないのだ。

この“自由”は、やはりそれ相応の技術がなければ実現は無理である。その技術とは、基本的には「汎用的であること」だ。最近では、Linuxに代表されるオープン化、IAサーバのデファクト・スタンダード化、仮想化技術の進展で、機器等の汎用性が高くなってきている。よってユーザは、“自由”を得たいのならば、現在の保守ベンダーや新規導入候補のベンダーがオープン化・仮想化に本気で取り組んでいるかを見極めるべきだ。

またITベンダーは、自らが“自由”をもたらしてしまったら乗り換えられてしまうのでは…などと臆してはならない。古くは家庭用ビデオテープ、昨今では次世代DVDでの規格争いに、消費者はそっぽを向いたではないか。
「囲い込み」とは、運用・保守サービスや魅力ある提案等の付加価値で行うものであって、乗り換え困難な“ハードル”を設けることで行うものではない。
ユーザは、真に“自由”を追求しているベンダーやその提供製品を、必ず選択するのである。

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