公的資本注入でも米国株が上昇しない理由

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2008年10月20日

  • 成瀬 順也

米国株の下落が止まらない。GSEs(ファニーメイ、フレディマック)を救済・公的管理下に置いても、金融安定化法が成立しても、緊急・協調利下げを実施しても、そして、待ちに待った公的資本注入が発表されても、米国株の反発は一時的。何をすれば、株式市場は納得するのであろうか。

市場参加者の間で切り札と見られていた公的資本注入が効かないのは、既に実体経済の悪化が鮮明となってしまったためであろう。米国経済は昨年から既にリセッション入りしたのではないかと懸念されていた。しかし、日欧がマイナス成長に転じるなか、4~6月期の実質GDP成長率が前期比年率+2.8%を記録するなど、意外な堅調さを誇っていた。これは輸出が好調な一方で、企業が慎重な経営を続けた結果、在庫・設備投資の過剰感が乏しかったことに一因があろう。

最大の問題は、せっかく景気減速が緩やかだったのに(緩やかだったからこそ?)、それに甘えてしまったことである。この間、サブプライム問題には抜本的な解決策が打たれず、利下げはいったん中断し、景気刺激策は一時的な効果しか期待できない戻し減税中心にとどまった。当然の帰結として、戻し減税効果が剥落した8~9月頃から、一気に景気が失速し始めたのである。例えば、失業率は6.1%へと跳ね上がり、ISM指数は9.11同時多発テロ直後の2001年10月以来の低水準へと落ち込み、小売売上高に至っては1991年1月以来の3ヶ月連続マイナスを記録している。

結局、米国株下落の要因は金融不安から景気不安へと拡大してしまったと言える。個人消費低迷の要因は、住宅価格の下落とガソリン価格の上昇から、既に雇用環境の悪化に移っている。米国では今年に入って既に15の銀行が破綻しており、預金保険公社の問題行リストには6月末時点で117行がリストアップされている。つまり、大手行の処理が進んでも、景気が良くならなければ、中小地銀がさらに100行破綻してもおかしくないのである。

米国株が大底を打ち、本格的な反騰を開始するために必要なのは、金融不安と景気不安取り除くことである。金融不安については、公的資本の注入を契機に徐々に減退するであろう。中小地銀の破綻懸念も含め、問題は景気不安に集約されていく筈である。景気不安に対しては、まず利下げが再開された。近いうちに追加利下げもあるだろう。残るは財政面での景気刺激策である。株価は景気対策催促相場の様相を強めている。早ければ大統領選(11月4日)後、遅くとも大統領就任(1月20日)時には景気対策が打ち出され、株価の本格反騰へのカードが揃うことになろう。

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