グローバル化の遅れと海外経済への依存

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2008年10月15日

  • 尾野 功一
世界経済が混迷の度合いを増している。昨年前半まで支配的であった明るい展望は、今となっては遠い過去の記憶のようである。新興地域の経済成長が自立化する「デカップリング論」は、イメージが先行したものであり、事実でないことは、統計的には明らかであり、過去1年間に起きた出来事がそれを如実に証明している。そもそも、世界経済の連携と相互依存が着実に進むグローバル化経済のもとでは、各国の経済変動が共振するカップリングが進むと考えるほうが自然である。

では、日本のグローバル化はどうであろうか。名目GDPに対する貿易額は、日本は世界的にみて最も低い国・地域のひとつであり、過去20年程でこの値は少ししか上昇していない。名目GDPに対する直接投資の比率は、企業の海外進出が反映される対外直接投資も決して高くはなく、また、対内直接投資にいたっては、比較可能な国・地域のなかで日本は最下位に近い。このように、日本はグローバル化が総じて遅れていると考えられるが、一方で、2002年に始まった日本の景気回復は、過去の回復期と比べて経済成長における海外需要の依存度が高くなっている。

グローバル化の遅れと外需依存度の高さは、一瞥すると相反するように感じられるが、現在の日本経済の特質が反映されている。グローバル化は、単に輸出や海外拠点売上の増加などのように他国の経済成長の果実を受けるだけでなく、労働力や資本などを世界的に有効利用することを通じて国内経済の成長力を強化することに狙いがある。だが、日本では前者は歓迎されても後者については抵抗感が存在するようで、企業の買収防衛策の導入や、空港や電力に対する外資規制の検討議論などにそれが表れている。国内部門の牽引力が弱ければ、グローバル化の遅れにもかかわらず海外経済に揺さぶられる構図は起こりうることで、現在の日本はそれに該当する。経済構造を強化する手段は多様であるが、近年世界で成長力を高めている国の多くはグローバル化への適応に優れていると考えられる。

世界経済が混乱する現在は、グローバル化の負の側面に目が向きやすい。だが、日本は経済成長が鈍化しつつも他国と比べると相対的に傷が浅く、冷静な視点に立ち、これまで充分に享受していないグローバル化のメリットをより追求する取り組みが重要と思われる。

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