日本のファッションビジネスの向かう先

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2008年10月09日

  • 甲斐 友美子

9月のファッションの話題と言えば、銀座にオープンしたスウェーデンの衣料品専門店「H&M」。アパレル関連の新聞などでは、H&Mが日本への出店を発表した1年も前からその名前が踊り、オープン当日は入店待ちの長蛇の列。銀座の街を歩けば、H&Mの紙袋を持った女性を何人も見かけます。東京に新しい大型店が1店オープンしたということだけで、なぜこんなに話題になっているのでしょうか。

新しいモノ好きとされる日本人は、「これまで国内で入手が難しかった、海外では評判がいいというお手ごろ価格のH&Mの商品が手に入るようになる」、ということに久しぶりの高揚感を感じています。最近は、情報から商品まで、世界中からボーダーレスに手に入るようになっているので、このような出来事はめったにありません。

一方で、アパレル業界からすると、少し事情が違い、単なる一時の話題ではありません。H&Mは江戸時代末期の黒船にたとえ、「黒船襲来」という言い方がされており、脅威として捉えられています。脅威の要因は、二つ。スピードと利益率です。毎日店頭に新商品を投入し新鮮さを保ち、再生産はしないというポリシー。それを支える多品種生産にも関わらず、高い利益率を維持する製造管理体制。営業利益率は、ユニクロの15%前後に対し、H&Mは23%程度です。

しかし、日本のアパレル企業のH&M式への追随は、すでに業界の疲弊の一因ともなっている生産の短サイクル化を加速させることにもなり、体力勝負では負けてしまう可能性があります。日本企業は、低価格競争や生産・販売の短サイクル化以外の部分での優位性を確立することが必要です。日本のファッションビジネスは、「カワイイ」というキーワードで注目を浴びていたり、生地製造や染色などの技術の高さに定評があるものの、それらを十分に活かすことができないため、現在もアピール力もブランド力も弱い状態にあると評せられます。

H&Mの日本進出で、他社が大きくシェアを奪われたりするような直接的な影響は、短期的にはあまりないでしょう。事実、競合として呼び声高いユニクロ銀座店は、9月の販売実績でそれほどH&Mの影響を受けていないようです(むしろつられて客数が増加しているとのこと)。ただ、この機会をきっかけに日本のファッションビジネスが自らの強みを自覚し、業界として変革していくことが期待されます。明治時代は、黒船襲来後にライフスタイルが西洋化するという激変がありました。さて今回の黒船はどの程度の影響をもたらすでしょうか。

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