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米国の時価会計凍結の議論

2008年10月07日

吉井 一洋

米国で時価会計を凍結すべきとの議論が出てきている。既に、SECは2008年9月30日に、「SECの主任会計士室及びFASBスタッフによる時価会計の解説」という文書を公表した。同文書は、流動性が低い証券等についての、SFAS157号『公正価値の測定』に基づく時価の算定に関する考え方を示している。

一方、米国で10月3日成立した金融安定化法では、SECにSFAS157の適用を凍結する権限を与える旨を定めている。さらに同法では、SECに、FRB及び財務長官と協議して、FASBのSFAS157の中に挙げられた時価会計基準の研究を実施し、同法の適用開始日から90日経過する前に研究結果を報告するよう求めている。

SECが9月に公表した文書は、流動性が低いため、適切な市場のデータを入手できない場合、市場価格等の代わりに、その証券から得られると期待される将来キャッシュ・フローや適切なリスクプレミアムを含んだ経営者の評価を用いることが許容される旨など、時価評価に当たっての解釈を示すものであり、時価会計そのものを凍結する内容とはなっていない。これに対して、金融安定化法の規定は、SECに時価会計そのものの凍結を認めているように思われる。

時価会計に対する批判の主なものとしては、流動性が低下している状況で入手できる時価が資産の本来の価値を反映していないという批判と、時価会計が証券化商品等の価格の下落を増幅しそれが金融機関の業績悪化、株価の下落を招いているという批判が挙げられよう。

このうち、前者は、時価会計の枠組みというよりは、時価の算定方法に関する批判である。金融商品の評価において、これまで流動性リスクというものはあまり考慮されてこなかったが、この点も含めて検討すべき課題であろう。SECの9月のペーパーはこの問題に対応するものと位置づけられよう。ちなみに、IASB(国際会計基準審議会)も、FSF(金融安定化フォーラム)の要請を受けて、流動性が乏しい場合の金融商品の価格評価について検討を開始し、9月16日に草案を公表している。

後者の批判は時価会計の枠組みへの批判である。しかし、時価会計を凍結しても金融機関の実態が改善するわけではない。わが国の過去の経験から照らしても、問題の解決にはつながらないと思われる。わが国では時価会計を導入する前の98年3月に、それまで低価法の適用を強制していた銀行等の保有株式に原価法の選択適用を認める措置を導入したが、株価の下落には歯止めはかからなかった。銀行の不良債権についても、実態がなかなか開示されず償却も進まず、金融再生プログラムでDCF法による評価が強制されてようやく解決に向かった。即ち、開示や償却が遅れたことが問題の解決を長引かせた。時価会計の適用を凍結した場合、投資家は金融機関の実態を把握することができなくなり、どの程度含み損をかかえているかについて疑心暗鬼になり、金融機関への投資や資金提供を回避することになろう。その結果、金融機関の資金調達は困難になり、かえって事態を悪化させてしまう可能性が高いと思われる。SECには是非とも、良識のある判断を望みたい。

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