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不良資産買取の効用と問題点

2008年10月02日

大和総研 顧問 岡野 進

9月29日、米国下院は「2008年緊急経済安定化法」(Emergency Economic Stabilization Act of 2008)を賛成205、反対228で否決した。共和党議員の3分の2が反対、民主党でも100人近くが反対した。当日のニューヨークダウ30種平均株価は777ドルの暴落となり、なんらかの政策対応なしに現在の金融危機の乗り切りは不可能であることをあらためて示した。

下院による法案の否決は共和党側では保守派を中心とする部分、民主党側ではより左派的な部分による反対がでたことが原因である。どちらの勢力も、中道的な部分に比較して左右のポピュリズムへの依存が強い。選挙を前にして地元の支持者の反対の声に応えて反対票を投じた議員も多い、と伝えられている。

否決された「2008年緊急経済安定化法」の核は「不良資産救済プログラム」(TROUBLED ASSETS RELIEF PROGRAM)である。下院に上程されたドラフトでは、財務長官の権限により財務省国内金融局のもとに金融安定化事務局を作りそれを通じて不良資産買取を行うこととしている。法律の施工後45日以内、初めの不良資産購入の2営業日前までに
(1) 不良資産購入のメカニズム
(2) 不良資産の価格付け、価値評価の方法
(3) 資産運用者の選択方法
(4) 購入対象資産の条件
を定めなければならないとしている。また買取以外に政府保証を行うプログラムも含められている。プログラムの監督については財務長官以外を議長とし、FRB議長、財務長官、連邦住宅金融機関ダイレクター、SEC議長、住宅都市開発省長官の5人からなる委員会が行うこととしている。

今回、財務省が不良資産の買取プログラムを提起した背景には、9月17日にウォールストリートジャーナルに掲載されたブレイディー元財務長官、ルードビック元財務省通貨局長、ボルカー元FRB議長による「RTCを復活させよ」と題する3者共同提案という伏線があった。RTCとは米国政府所有の「清算信託公社」で、いわゆるS&L危機に対応し1989年に設立され、当時の不動産市況悪化から生じた不良債権処理に活用された。1995年までにRTCは747の金融機関を清算し、その総額は3940億ドルにのぼった。
この3者提案では、
(1) 取引ができなくなった証券のみを購入することで市場の流動性を再度高める
(2) 問題のある証券を連銀の窓口貸し出しの通常期間より永く保有することで、当該証券の清算を秩序だって行い、価値を回復する可能性を高める
(3) 買取機関に柔軟性を与えることで居住や事業の継続を可能にし、差し押さえを減少させることが出来る
(4) 1980年代のRTC同様に必要であれば、連邦預金保険機構が問題のある金融機関を清算することを助けることが出来る
の以上4点があげられている。そして、新機関はただちに資金が必要であり、税の負担がかかるかもしれないが、逆に大きな利益をもたらす可能性もある、過去にもRTCの成功の経験があり、米国は断固として危機に対処すべきである、としている。

サブプライム関連金融商品がサブプライム自体の最終的な損失をすべて織り込む状態になったとして、すべての派生的な損失を含む純損失は本源的な損失とイコールになるのであって、それ以上の価格低下は市場のオーバーリアクションであると言えるだろう。現在を状況はそれに近い。買取機関によって単純に金融機関に流動性を与えるだけでなく、証券化商品に対する権利を遡及的に行使して証券化を反転させた形で解体していけば、現在の流動性不足から価格がつかないか、きわめて低価格に評価されざるを得ない証券化商品についてその価値をかなり回復することが可能になるかもしれない。しかし、この作業は過去にRTCが行った不良債権回収と比較すると債務者の数が非常に多い上に証券化過程で権利関係が複雑化しているため、かなり難しい作業となりそのためのコストと時間も膨大なものになるといわざるをえない。

特に大きな問題は取引がされない証券をどのような価格で購入することが適正か、という問題である。これまで取引がされていない低流動資産に参考価格事例が発生するため、同じ資産が金融機関に保有されているとレベル2資産としてバランスシートに反映されることになる。買い取り価格の設定が大きな影響をもつだけに、価格設定は非常にセンシティブなものになるだろう。議会の質疑では入札方式で買取を行うアイデアが提案者側のポールソン財務長官から出されていた。この場合、入札に当って買取額をどの程度に設定するかが価格において決定的になる。例えば流動性の無い特定の証券化商品を購入するとしていっきに入札方式でその発行残高全体を購入しようとすれば価格はかなり高いものになる。逆に少額しか購入しなければ価格は投売り価格に近いものになる。どの程度が適切かは試行錯誤で行っていかざるをえないだろう。

流動性の無い証券化商品に価格付けがされることで、これまで損失として計上していなかったものを損失として計上することになる金融機関の場合には資本不足となることも考えられ、金融再編を促すテコとしても作用するだろう。
 

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