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本当の富とは何か

2008年10月01日

原田 泰

スペインは、16-17世紀、南米大陸に進出して、各地から大量の金銀を略奪し、また鉱山を開発した。これがスペインを経由してヨーロッパ各国に流入した。その量は、銀16,886トン、金181トンという。この大量の金銀の流入が、ヨーロッパの価格水準を上昇させた。これは価格革命と呼ばれている。

当時の人々もこのことを認識し、後にアダム・スミスも「アメリカ大陸で豊かな鉱山が発見されたことが、(1570年から1640年の間に)穀物に対する銀の価値の低下をもたらした唯一の要因だったとみられる(通貨である銀の価値の低下はインフレである)」と書いている。その後、ハミルトンという経済史家がこの議論を詳細に検討し、ケインズがハミルトンの研究を称賛したことから、価格革命が金銀の大量の流入によることが定説となっている(近年、この説明に異論が提出されているが、アメリカ大陸からの銀が唯一の原因ではないにしろ、主要な原因であることに異論はないようだ)。

スペインは、金銀を富と考えた。しかし、金銀を奪ったスペイン人にとって、最終的に必要なものは食糧、衣服、住宅、将来とも所得を生み出す財産だ。将来とも所得を生み出す財産とは、当時のスペインであれば農地である。ところが、食料も衣服も住宅も農地も供給は限られているのだから、大量の金銀がこれらのものに向かえば、最終的にはインフレになるしかない。インフレは、虐殺され財宝を奪われた南米の人々の復讐であろう。復讐が、インフレ程度で済んだことをスペインは感謝すべきだ。

アダム・スミスとイギリスは、この状況を見て、金銀は富ではあるが、より重要な富は、将来にわたって富を生み出す肥沃な農場、効率的な工場、そこで働く技能の高い労働者などであると学んだ。ここから、イギリスの産業革命が始まった。

金融資産は確かに富であるが、その裏側にある実物資産、それに協力して働く人的資産こそが重要だ。金融は、これらを結びつけることによって富の創造の手助けをするだけだ。

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