中秋の名月に想う

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2008年09月29日

  • 菅原 晴樹
秋の訪れを感じたいと思い奈良に行きました。

京都駅から近鉄特急に乗り換えて奈良駅に降り立ちました。まずは、興福寺へ。五重塔を仰ぎ見て、国宝館に飛び込みました。ここは、文字通り、国宝、重要文化財の宝庫です。建物の中ほどに進み、3つの顔と6本の手を持つ阿修羅像を見ると、こちらも思わず手を合わせたくなります。天燈鬼・龍燈鬼も必見です。像高80センチ弱の小さな像ですが、実際の大きさ以上の迫力を感じます。そして、猿沢池を眺めながら、元興寺に向かいました。南都七大寺のひとつで創建当時は広い境内を持つ寺院だったそうです。禅室を取り囲むように、旧境内の「ならまち」から発掘された石塔や石仏を並べた「浮図田」(仏塔を並べた田んぼのような姿からそう呼ばれる)があり、その中で、桔梗が石塔等に寄り添うように咲いていました。それから、東に向かい、街の佇まいが気に入っている高畑町を歩いて新薬師寺を訪れました。光明皇后が聖武天皇の病気回復を願って創建された寺で境内は萩の花が咲き乱れ、訪れる秋を感じさせます。本堂には日本最古の十二神将が本尊の薬師如来をお守りしています。中でも、伐折羅(ばさら)は、いつ観ても威圧感があります。それから、志賀直哉旧居を見ながら「ささやきの小径」を散策。春日大社二ノ鳥居まで続く500mほどの道ですが、市街地にいることを忘れさせるほどの静けさです。道沿いに馬酔木の原生林が鬱蒼と生い茂り、木陰から鹿がこちらを見ているような気がしました。

奈良駅に戻り、近鉄奈良線学園前で下車、大和文華館を訪れました。残念ながら、国宝の「婦女遊楽図屏風」(松浦屏風)は展示されていませんでしたが、蛙股池の畔に建てられた美術館の周囲に広がる「文華苑」の苑内には、ちょうど萩と彼岸花が咲いていました。そして、駅をはさんで北側にある松伯美術館へ。上村松園、息子の松篁、孫の淳之と3代の日本画を展示しています。こちらも池の畔に建っていますが、かつて近鉄の会長を務めた佐伯勇氏の邸宅内にあり、たくさんの松の木に囲まれています。ここを訪れるとなぜか気持ちが安らぎます。夕暮れになり、遠く春日山と高円山方面に円い月が昇ってくるのを見ることができました。帰りの新幹線が、岐阜羽島駅を通過する頃にふと頭を過ぎったのが「健康保険組合解散」のこと。

先日、西濃運輸の健康保険組合の解散が大きく取り上げられました。これは、今年4月にスタートした高齢者医療制度に対するネガティブキャンペーンの一環とも言えます。確かに、今年に入って、解散した組合健保はすでに13組合。しかしながら、2000年以降すでに累計で約200の組合が解散しています。今年の解散理由の詳細は不明ですが、新しい高齢者医療制度に対する前期高齢者納付金および後期高齢者支援金による財政悪化予想が要因ではないかと思われます。健康保険組合は9月1日時点で1500組合。被保険者本人が約1500万人強、被扶養家族が約1500万人。労使で負担している保険料が平均7.3%、政府管掌健康保険の8.2%に比べて負担は少なく、かつ各組合の独自給付・事業があり、人間ドックの費用補助、保養所補助など相対的に恵まれています。他方、政府管掌と同率以上の保険料の組合も344組合もあり、健康保険組合連合会が2008年度の全国の健保の予算を集計したところ高齢者医療のための支出額が全保険料収入の46.5%も占め、約9割の組合が赤字となるとの見込みです。NTT健保をはじめとして大手企業健保で保険料率引き上げの動きも出てきています。

解散した場合、その加入者は政府管掌に移ります。しかし、政府管掌の財政状況も厳しく、保険料率の引き上げも確実視されています。さらに10月からは運営者が社会保険庁から「全国健康保険協会」に変わり、来年度以降都道府県別に保険料率が異なることもありうるようです。

組合健保およびその母体企業の努力に限界はあると思います。しかし今後、新規採用が困難になることが予想される雇用環境下、企業に働く従業員の福利厚生の一環として健康管理の充実、モティベーションの向上は不可欠です。麻生新内閣において高齢者医療制度の見直しが政策課題に掲げられる中、拙速に「解散」の選択をすることが最良か、もう一度、母体企業、健康保険組合、労働組合等一体となって検討すべき「経営戦略上」の最重要課題ではないでしょうか。

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