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民間助成と“ハシゴ”

2008年09月24日

経済調査部 主任研究員 市川 拓也

本年12月から始まる新公益法人制度では公益認定等委員会が実質的な判断機関として機能することになるが、その委員を務める出口正之氏の書籍「フィランソロピー 企業と人の社会貢献」(1993年、丸善)には、フィランソロピーの先駆者としての鉄鋼王カーネギーの話が掲載されている。移民の境遇で貧しいカーネギーは、幼少の頃に知人の近所で書斎を開放するアンダーソン氏から本を借りて読み、そのことが後の事業成功の糧となった。その恩返しとして2,509箇所の図書館に基金をつくり援助を行なったという話である。同書によるとカーネギーの生涯の寄附額は推定で3億5千万ドルにも及んだということであるからかなり多くの者がその恩恵を受けたに違いない。

ただし、カーネギーは気前よく資金をあちこちに与えて回ったというわけではなかったらしい。「援助に値しない人にまで援助するような中途半端なフィランソロピーは、百害あって一利なし、と強い口調で警告を発し」、また「『上に登りたいという向上心に燃える者に対し、“ハシゴ”をすぐ近くに置いてやること』こそ、フィランソロピーの神髄」と説いたそうである。

さて、今度の新公益法人制度では、公益目的事業を行なう法人が公益認定を受けるための18の基準が設けられている。このなかには公益目的事業費にかかる財務指標もあり、公益実施費用の収益等実施費用と管理運営費用をも含めた総額に対する割合を50%以上とすること(公益目的事業比率:5条8号、15条)や、公益目的事業において収入は適切な費用以下とすること(収支相償:5条6号、14条)などもある。他の基準もあるものの、量的な側面から公益目的事業で多くの支出を行なうかどうかを重視しているのは間違いない。

日本では今のところ、カーネギーのいう百害あって一利なしというような弊害には直面しているとは思えないが、質的な側面からの評価は、今後、重要性を増してくるものと考えられる。非営利法人の多様な価値観は活力の源であることを考えると、新制度においてすぐさま公益事業の質的な側面を判断基準に取り入れることは難しいであろうが、自助努力をする者の近くに“ハシゴ”を置いてあげる行為を積極的に評価できるようなしくみへと整備を進めてもらいたいものである。

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経済調査部
主任研究員 市川 拓也