正念場を迎える浅い景気後退

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2008年09月22日

  • 渡辺 浩志
景気が後退局面に入ったことはもはやコンセンサスとなっている。ことに家計は深刻だ。長かった景気回復の中でも所得はほとんど増えず、ここに来ての物価高で泣きっ面に蜂。消費者マインドはすでに過去の景気後退局面の最悪期を下回っている。

ところがそうでもない分野もある。様々な景気指標の足下の状況を見ると、輸出数量は減速しつつも前年比でプラス圏。生産は3四半期連続の前期割れが見込まれるが、マイナス幅は1%未満。いずれの数字も通常の後退局面では山から程なくして▲10%近くの大幅な落ち込みを示すものだ。短観にみる企業の業況は悪化しつつも、バブル崩壊後の二度の景気の山に並ぶ高さ。景気の方向感を決める企業周りの統計は、過去の後退局面に比べて悪化が緩やかだ。

この背景としては、新興国の成長もあろうが、最も重要なのは米国経済の減速が緩やかなものにとどまっていることだろう。サブプライム問題に火が付き、住宅資産額を元手とした過剰消費という高成長エンジンを失った米国経済は、いつ急減速しても不思議ではない。しかし、雇用者数の減少幅は小さく、通常の景気後退局面のようにどんどん減少していくような状況ではない。景況感を表すISM指数は08年に入ってから50近辺で横ばいだ。こうしたことから、米国の個人消費は住宅の逆資産効果があるのに底堅い。設備投資も経営者マインドや稼働率が悪化しているのに底堅い。

今なお米国の個人消費と設備投資が底堅いのは、結局、1600億ドルに上る減税の効果によるところが大きいだろう。だが、この効果は出尽くしつつあり、年内には切れる。また、足下では金融不安が増幅し、実体経済への影響の深刻化も懸念される。新大統領の経済政策や追加的な金融緩和を頼みの綱に、米国経済は正念場を迎えることになる。

再び日本国内に目を向けると、雇用、設備、在庫などに過剰感はない。日本発の悪化の芽はなく、今のところ上述のような緩やかな調整にとどまっているため、今回の景気後退は浅いまま終わるという見方が根強い。とはいえ、内需に期待が持てず、景気は転換点も悪化の度合いも外需次第というところ。米国経済が揺らげば、日本経済はいよいよ実力を試されることになる。

00年代の米国では住宅価格が上昇し、住宅投資や、資産効果による個人消費が強力に景気を牽引してきた。そしてこれが世界中の生産物を吸い寄せ、新興国の成長を促し、貿易を通じた世界的好況をもたらした。しかし、サブプライム住宅ローン問題以降、こうした成長エンジンが失われ、景気はいつ急ブレーキを踏んでも不思議ではない状態だ。新興国の内需の成長も、所得の源泉は外需であり、先進国の景気が悪化する中で自立的に成長し続けることはできない。

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