「階層序列意識」の排除とリーダーシップの品質向上
2008年09月18日
日本のお母さんと米国のお母さんに、「森の一本道で子供を連れていて、クマに遭遇したらどうするか」と質問する。日本のお母さんのほとんどは、子供を体で隠してうずくまって、つまり、クマに背中を向けて、防御すると答える。米国のお母さんは、子供に来た道を戻れ、と指示をして、自分はクマとファイトして時間を稼ぐのだそうである。
一般に日本人は物事の変化に対して受動的な防御姿勢を取る。島国で他民族の侵略を受けにくい安全な環境の中で、脅威といったら台風と地震といった天変地異である。そのような特異な環境が日本を形作ってきた。
ここで、世の中を大きく変えている情報やその活用という視点から日本社会を考えてみよう。変化に対する受動的な防御姿勢から、組織内へ下手に情報を取り込むと組織が不安定になると考える。そして、外部から得られる情報の活用を重視しない組織の意思決定の仕組みが営々と維持されて来た。
現在は情報通信技術の進展に伴う大変革期である。しかし、情報化時代に向けた変化への対応を積極的にしてこなかったツケが一気に表面化し、社会現象も含めて、さまざまな問題が露呈してきている。
さて、情報化の進展により世の中がどのように変わるか。その変化が最も鮮明な形で現れる軍隊について考えてみよう。
米国防総省によれば、戦闘において、目標発見から攻撃開始のプロセスまで、第二次世界大戦時は約一週間かかっていたものが、湾岸戦争時は1日となり、2000年の時点で数時間、さらに2010年には2分以内になるという。情報技術の進展により、IDAサイクル(Information-Decision-Action)は劇的に短縮される。
ところが、ここで問題になるのが、人間の介在による情報処理の遅れである。この遅れは主に組織の階層構造と権限集中によって生じる。
米軍も湾岸戦争(1991年)とイラク戦争(2003年)では、戦い方が全く違った。21世紀型軍隊は、デジタル化された装備により、リアルタイムで縦横の情報共有を行い、大幅な権限委譲をしている。ロケット砲を発射する権限も現場の兵士に委譲された。
企業も同様の変化の中にある。企業に入ってくる情報は増え続け、これに伴い、企業組織も情報処理能力を高めなければならない。より現場に近いところで、状況の変化に対応した判断が求められる。各階層が情報をリアルタイムに共有し、自らが置かれた状況に即応した意思決定を下す役割と権限が求められる。「社に帰って検討します」がだんだん通用しなくなってきている。
情報爆発やコミュニケーションコストの劇的な低下により、権限委譲や分権化が競争力の鍵となるわけである。
しかし、権限委譲しても、各個人が自分勝手な判断や行動をしてしまっては困る。そこで、目標を共有する必要が生じ、目標管理制度が導入される。また、権限を委譲するには、対象となる個人がその役割に見合う能力を持っていなければならない。従来にも増して、人材育成が求められ、目標管理において、人を育てたか、自分も成長したか、ということが最も重要になってくる。
そのためにはビジョンを示して個人を動機付け、目標にコミットさせる心の通じたリーダーシップが求められる。
さて、目標管理は、本来、Management By Objectives and Self-control(ドラッカー) である。つまり、設定された目標にコミットし、自主的に管理できなければならない。
ところが、多くの組織で目標の自主管理、つまり権限委譲の実現が難しい。目標管理がうまく機能しないケースでは、組織目標としての売上げ数値がブレークダウンされ、ノルマ的に管理されていたり、職位という力を利用した強引なマネジメントが行われていたりする。
情報化の進展、それに伴う情報共有と権限委譲、権限委譲に伴う個人の動機付けと自立育成、さらに達成目標の自主的管理、こうした一連のサイクルが日本の組織でうまく回っていないのである。
それは、なぜか。
そんなことを考えながら、NHKの大河ドラマ「篤姫」を見ていた。
皇女和宮が将軍家茂に嫁いだ。公武合体である。江戸に下る、と言う。そして、武家より地位の高い公家から来たのだからと大奥のしきたりに従おうとしない。大奥の座敷で誰が上座に座るかをめぐって争いがたびたび起きる。
現代の日本社会でも、上下を意識しなければならない。
組織において、上下を意識し、それぞれの役割を限定的に考えることを「階層序列意識」と呼ぶことにする。その「階層序列意識」を前提とした組織マネジメントが行われてきた。「階層序列意識」を排除せず目標管理を行うとノルマ的管理となる。短期的には成果をあげられても長続きせず、やがて組織は疲弊する。
情報化の進展により、世界はフラット化し、意思決定の分散化が図られなければならない。しかし、この歴史的に形成された「階層序列意識」が情報化時代への変革の大きな障害となっているのではないだろうか。「階層序列意識」の排除によるリーダーシップの品質向上、これが現在の組織が直面する課題である。
今週の「篤姫」で勝海舟が言った。
「人は力で動かすものではなく。心で動かすものだ」と。
一般に日本人は物事の変化に対して受動的な防御姿勢を取る。島国で他民族の侵略を受けにくい安全な環境の中で、脅威といったら台風と地震といった天変地異である。そのような特異な環境が日本を形作ってきた。
ここで、世の中を大きく変えている情報やその活用という視点から日本社会を考えてみよう。変化に対する受動的な防御姿勢から、組織内へ下手に情報を取り込むと組織が不安定になると考える。そして、外部から得られる情報の活用を重視しない組織の意思決定の仕組みが営々と維持されて来た。
現在は情報通信技術の進展に伴う大変革期である。しかし、情報化時代に向けた変化への対応を積極的にしてこなかったツケが一気に表面化し、社会現象も含めて、さまざまな問題が露呈してきている。
さて、情報化の進展により世の中がどのように変わるか。その変化が最も鮮明な形で現れる軍隊について考えてみよう。
米国防総省によれば、戦闘において、目標発見から攻撃開始のプロセスまで、第二次世界大戦時は約一週間かかっていたものが、湾岸戦争時は1日となり、2000年の時点で数時間、さらに2010年には2分以内になるという。情報技術の進展により、IDAサイクル(Information-Decision-Action)は劇的に短縮される。
ところが、ここで問題になるのが、人間の介在による情報処理の遅れである。この遅れは主に組織の階層構造と権限集中によって生じる。
米軍も湾岸戦争(1991年)とイラク戦争(2003年)では、戦い方が全く違った。21世紀型軍隊は、デジタル化された装備により、リアルタイムで縦横の情報共有を行い、大幅な権限委譲をしている。ロケット砲を発射する権限も現場の兵士に委譲された。
企業も同様の変化の中にある。企業に入ってくる情報は増え続け、これに伴い、企業組織も情報処理能力を高めなければならない。より現場に近いところで、状況の変化に対応した判断が求められる。各階層が情報をリアルタイムに共有し、自らが置かれた状況に即応した意思決定を下す役割と権限が求められる。「社に帰って検討します」がだんだん通用しなくなってきている。
情報爆発やコミュニケーションコストの劇的な低下により、権限委譲や分権化が競争力の鍵となるわけである。
しかし、権限委譲しても、各個人が自分勝手な判断や行動をしてしまっては困る。そこで、目標を共有する必要が生じ、目標管理制度が導入される。また、権限を委譲するには、対象となる個人がその役割に見合う能力を持っていなければならない。従来にも増して、人材育成が求められ、目標管理において、人を育てたか、自分も成長したか、ということが最も重要になってくる。
そのためにはビジョンを示して個人を動機付け、目標にコミットさせる心の通じたリーダーシップが求められる。
さて、目標管理は、本来、Management By Objectives and Self-control(ドラッカー) である。つまり、設定された目標にコミットし、自主的に管理できなければならない。
ところが、多くの組織で目標の自主管理、つまり権限委譲の実現が難しい。目標管理がうまく機能しないケースでは、組織目標としての売上げ数値がブレークダウンされ、ノルマ的に管理されていたり、職位という力を利用した強引なマネジメントが行われていたりする。
情報化の進展、それに伴う情報共有と権限委譲、権限委譲に伴う個人の動機付けと自立育成、さらに達成目標の自主的管理、こうした一連のサイクルが日本の組織でうまく回っていないのである。
それは、なぜか。
そんなことを考えながら、NHKの大河ドラマ「篤姫」を見ていた。
皇女和宮が将軍家茂に嫁いだ。公武合体である。江戸に下る、と言う。そして、武家より地位の高い公家から来たのだからと大奥のしきたりに従おうとしない。大奥の座敷で誰が上座に座るかをめぐって争いがたびたび起きる。
現代の日本社会でも、上下を意識しなければならない。
組織において、上下を意識し、それぞれの役割を限定的に考えることを「階層序列意識」と呼ぶことにする。その「階層序列意識」を前提とした組織マネジメントが行われてきた。「階層序列意識」を排除せず目標管理を行うとノルマ的管理となる。短期的には成果をあげられても長続きせず、やがて組織は疲弊する。
情報化の進展により、世界はフラット化し、意思決定の分散化が図られなければならない。しかし、この歴史的に形成された「階層序列意識」が情報化時代への変革の大きな障害となっているのではないだろうか。「階層序列意識」の排除によるリーダーシップの品質向上、これが現在の組織が直面する課題である。
今週の「篤姫」で勝海舟が言った。
「人は力で動かすものではなく。心で動かすものだ」と。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。