原油先物市場に関する米国政府機関相互タスク・フォース

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2008年09月03日

  • 吉川 満
米国発のいわゆる『証券市場の混乱』が話題になっています。別名、証券化金融商品問題と言われている事からも明らかな通り、『証券市場の混乱』をめぐっては、様々な利益相反問題が実行され、これが『証券化金融商品問題』の、大きな一因となりました。

そういう先入観念があるからでしょうか、先物市場で原油価格を引き上げる違法行為が行われたのではないか、と考える人が少なくないようです。こういう、投資家の思い込みに対処するためもあって、米国の『商品先物取引委員会(CFTC)』は、6月に他の連邦の金融監督当局等(農務省、財務省、連邦準備理事会、連邦取引委員会、及び証券取引委員会:原油先物市場に関する米国政府機関相互タスク・フォース)の協力も得て、商品先物市場の本格的な調査に着手しました。7月22日には、予備的報告書が発表されました 。(※1)

より完全な報告書とするために作業は続けられていますが、最終報告書も早ければ9月には公表される予定となっていますし、予備的報告書にも非公開情報なども、織り込まれており、かなり確実性の高いものと思われます。

予備的報告書は全部で39ページからなり、予備的というにしては大部のものなのですが、そのうち3ページ(P3~P5)は、エグゼクティブ・サマリーとなっています。以下ではこのエグゼクティブ・サマリーの、更に要約を紹介してみましょう。

予備的報告書では、2003年1月から2008年6月に至る、原油市場の動向を、市場のファンダメンタルな要因、および市場要因の両面から捕え、予備的考察を加えてあります。結論から言うと、CFTCはこの間の価格上昇は主として、基礎的な需給要因によるものと考えています。この間に、原油先物市場は、既存契約残高、取引活動、および取引件数のどれで見ても、原油先物市場の活動は、大幅に活発化したのです。

エマージング市場諸国の伸びが大きく貢献し、世界経済はこの10年間で、最も速いペースで拡大しました。それに合わせて原油の需要も、大きく成長しました。他方、供給の側はというと、かなり緩慢にしか増加しませんでした。大生産国の地政学的リスクと相俟って、生産不足が顕在化したのです。供給の伸びが、需要の伸びに追いつかず、石油価格急上昇が起こったのです。供給が少ない中で需要は増加するという不均衡、かつ需給の不均衡は将来に亘って続くという期待は、石油価格上昇に圧力をかけました。

先物市場への参加に関する関心の多くは、商品指数投資ファンドと、(その仲介役を務めた)商品スワップ・ディーラーに集中しました。市場ウォッチャーによっては、指数ファンドを通じたこの急激な資金の流入が、原油価格上昇の要因であったと考えました。しかし、CFTCが入手しているデータによれば、こうした資金流入の結果、増加したポジションが、オープン・インタリスト(既存残高)に占める比率は、比較的コンスタントなのです。

非公開のCFTCデータによれば商品スワップ・ディーラーは、昨年はロングとショートのポジションをほぼバランスさせていたのであり、2008年1月~5月には、ネットのポジションはショートでした。このようにCFTCの予備分析によれば、スワップ・ディーラーと、非商業的トレーダーのポジションの変化を見ると、大部分の場合、価格変化を後追いしていたのです。明らかに、これらのグループの活動が原油価格を引き上げていたという仮説に反するのです。こういうわけで、CFTCは、投機家とされる市場参加者の活動は、過去5年半については、原油価格のシステミックな変化には帰結しないと結論したのです。

証券化金融商品問題には、格付機関などの構造的な利益相反が、大きく絡んでいましたが、原油高は基本的に需給要因によって齎されたものであって、利益相反、ないし、違法取引によって齎されてものではないようなのです。原油高問題を考える際の出発点はここにおいて考えるようにしましょう。

(※1)Interim Report on Crude Oil [3.39MB]

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