海外子会社の配当は国内設備投資に向かうのか
2008年08月29日
海外子会社からの配当についての益金不算入制度とは、外国税額控除とは異なる二重課税排除方式で、主に欧州で採用されている国外所得免除方式の一つである。
国際的な二重課税を排除する方法としては、国外(源泉地国)で納めた税金を居住地国で納めるべき税金から差し引くことを認める外国税額控除方式と、国外で稼得した所得については居住地国において免税とする国外所得免除方式とがある。
昨年、社団法人日本経済団体連合会は、「平成20年度税制改正に関する提言」の中で、外国税額控除制度について、「地方税も含め、海外子会社からの受取配当金を益金不算入するといった、簡素な制度を創設することによって、企業が海外事業で得た収益を国内に還流し易い環境を整備すべきである。」と述べていた。海外子会社からの配当についての益金不算入制度は、従来から財界の要望があったものであり、国内の設備投資を活発にするものとされている。
これに対して、従来の政府税制調査会は、どちらかといえば、国外所得免除制度や海外子会社配当免除に対しては否定的であったと思われる。
しかし、2007年11月20日に公表された政府税制調査会答申では、米国・英国の流れを受け、国外所得免除制度や海外子会社配当免除の方式も含めて、あるべき外国税額控除制度についての議論を行っていくことが示されており、今回の論点整理も、昨年の税調の議論の方向性に沿うものであると考えられる。
海外に留保されている利益については、日本国内で課税されていないわけであるから、その配当について益金不算入制度を採用しても税収面での影響はほとんどないので、来年度の税制改正で実現する可能性はあると思われる。
しかし、この制度を採用したとしても、企業にとっては、法人税の実効税率が低い海外に投資した方が有利な点は変わらない。仮に、国内への資金還流が活発化したとしても、それがそのまま国内への投資に向かうかどうかは不透明である。国内の設備投資を促進させるためには、やはり、法人税の実効税率の引き下げや設備投資減税の実施が必要ではないだろうか。
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