「宴のあと」の中国
2008年08月25日
ついこの前まで、景気過熱とインフレ防止のための金融引き締めに軸足が置かれていた中国の経済運営は、四川省大地震の災害復興のため臨時的な財政出動を決定したあたりからトーンが変わり、現在では、インフレを抑制しつつも成長を確保するという、現状の景気拡大ペースを維持する方向にシフトし始めている。
7月の輸出や小売売り上げの前年比伸び率は、6月に比べてやや加速しているが、オリンピック直前の駆け込み輸出や、一時的な消費の盛り上がりによる可能性が少なくない。北京のホテルは、8月は空室が目立つなど、オリンピック特需はむしろ期待はずれだったようだ。
中国では昨年来、金融引き締めによる株式・不動産市場のバブル崩壊、05年7月以来の持続的な人民元高による、労働集約的な中小企業の経営破たんの増加などが始まっていた。加えて、アジア地域の好調で、米国向けのスローダウンを相殺していた外需にもかげりが見え出した。アジア各国では、インフレ抑制のための金融引き締めの影響で景気拡大のペースが鈍化し始めている。米国でも今後、戻し減税の効果がなくなる見込みであり、需要のさらなる減速が予想される。
外需に期待できない環境下では、内需に頼らざるをえないのはいうまでもない。ただし、景気減速とはいっても依然として実質成長率が10%前後の拡大を続けている以上、大幅な財政出動がなされるとは考えにくい。むしろ、中期的な観点から所得格差や不均衡の是正を伴う消費振興策が採られる可能性が高いだろう。個人所得税の課税最低限度の引き上げや、農村地域への支援強化などが議論されているのは、こうした観点に立ったものと言えよう。
足元の景気に目が向きがちだが、今年は78年の改革・開放から30年目にあたる。中国は、社会主義でありながら国内格差を容認する「先富論」を背景に、過去30年間、年率平均10%弱の成長を達成することができた。対外的にみても、グローバル化の波に乗り、世界の工場として安価な商品を世界中に供給するという地位を確立した。
しかし、最近では、製品の安全性、環境問題や地下資源の大量消費などの点で、大国としての責任ある行動を求められる場面も増えている。中国の経済政策が、対内的にも対外的にも転機に近づいているのは間違いないだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月15日
ポストコロナの人事制度を考える視点
~働く人の意識変化をどう捉えるか~
-
2021年01月14日
2020年11月機械受注
船電除く民需は市場予想に反し2ヶ月連続で増加、回復基調が強まる
-
2021年01月14日
アメリカ経済グラフポケット(2021年1月号)
2021年1月12日発表分までの主要経済指標
-
2021年01月13日
震災10年、被災地域から読み解くこれからの復興・防災・減災の在り方
『大和総研調査季報』 2021年新春号(Vol.41)掲載
-
2021年01月14日
共通点が多い「コロナ対策」と「脱炭素政策」
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2018年10月09日
今年から、夫婦とも正社員でも配偶者特別控除の対象になるかも?
配偶者特別控除の変質
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?