平成18年度・国立大学法人の財務指標の概観

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2008年08月18日

  • 内藤 武史
国立大学法人(以下国大法人)の財務分析を大学法人との比較を交えつつ試みた。財務諸表の勘定科目については、大学法人の勘定科目に国大法人のそれを可能な限り対応させるとともに、財務指標についても大学法人の諸指標に国大法人のそれを当てはめる形で算出した。

(1)収支性指標

企業の使用総資本事業利益率(ROA)に該当する「{(学校事業収入-学校事業支出)+事業外収入}/総資産」、売上高営業利益率に当たる「(学校事業収入-学校事業支出)/学校事業収入」、売上高経常利益率に当たる「経常利益/学校事業収入」といった代表的指標は平成18年度にかけてはほぼ横ばい傾向である。大学法人との比較では、全般的に国大法人が大幅に低いものの、「(学校事業収入-学校事業支出)/学校事業収入」については国大法人の方が若干高くなっている。

企業の営業収支に当たる「学校事業収支=学校事業収入-学校事業支出」は低下傾向にある一方、営業外収支に当たる「事業外収支=事業外収入-事業外支出」は上昇傾向にあり、傾向的には大学法人と同傾向を辿りつつあるといえる。

金融資産関連指標をみると、「支払利息/経常収益」は18年度1.3%と横ばいで大学法人の0.4%と比較して高い。企業の有利子負債金利に当たる「支払利息/(長期借入金+短期借入金)」は3.015%と上昇傾向が続き、大学法人の2.141%とは0.874%の格差が生じている。一方、金融資産運用利回りに当たる「(受取利息+有価証券利息)/(有価証券+貸付金+現金預金)」は0.149%と上昇傾向が鮮明だが、大学法人の1.323%とは1.174%もの大幅な格差がある。その結果として金融収支に当たる「(受取利息+有価証券利息)-支払利息」は1法人当たりで、私大が179百万円の黒字、国大法人は▲341百万円の赤字となっている。

(2)生産性指標

「損益分岐点比率(1)=損益分岐点収入(1)/学校事業収入」は96.3%と前年度比0.6%ポイントの上昇となり、「安全余裕度(1)=1-損益分岐点比率(1)」は3.7%まで低下した。ちなみに、これらの数値は大学法人と同一水準となっている。一方、「損益分岐点比率(2)=損益分岐点収入(2)/経常収益」は93.8%で前年度比0.1%ポイントの低下となったものの、大学法人は86.2%であり、両者には大幅な開きがある。「安全余裕度(2)=1-損益分岐点比率(2)」は国大法人6.2%に対して、大学法人は13.8%である。

「学校事業収入/教職員数」は20.2百万円と小幅上昇する一方、「事業外収入/教職員数」は0.3百万円と横ばい推移となった。前者は大学法人が19.4百万円なので国大法人の方が0.8百万円高く、後者は大学法人が1.3 百万円と1.0百万円高い。「経常収益/教職員数」は両者ほぼ同水準となっている。

(3)効率性指標

企業の使用総資本回転率に当たる「学校事業収入/総資産」は0.27回で前年度比横ばい、有形固定資産回転率に当たる「学校事業収入/有形固定資産」も0.29回で同横ばい、自己資本回転率に当たる「学校事業収入/自己資本」は0.38回で同小幅上昇となっている。「学校事業収入/総資産」と「学校事業収入/自己資本」は国大法人がそれぞれ0.05回、0.12回高く、「学校事業収入/有形固定資産」は 私大法人が0.09回高くなっていることから、国大法人は総資産および自己資本に関しては、大学法人よりも効率的に活用しているといえよう。

(4)安全性指標

「負債比率=総負債/自己資本」は41.6%、「総負債比率=総負債/総資産」は29.4%とともに前年度より上昇し、有利子負債依存度に当たる「(長期借入金+短期借入金)/総資産」は11.4%と同小幅低下したものの、大学法人はそれぞれ18.0%、15.2%、4.7%であり依然として大幅な開きがある。「自己資本比率=自己資本/総資産」は70.6%に低下し、大学法人の84.8%と格差は広がっている。

営業キャッシュ・フローに当たる「学校事業収入-学校事業支出+減価償却費」が前年度比低下している点は大学法人の傾向と同様であるが、国大法人の方が1法人当たりのキャッシュ・フローは大きくなっている。

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