ダニか、坊さんか。 -職業人としてのコンサルタント-
2008年08月14日
「なるべく平仮名を使って下さい」そんなお客さま(仮にA氏としておこう)のご要望に四苦八苦した経験が私のコンサルタントとしての原点である。小学生でも分かるように表現することの大切さをこのA氏から教わった。
例えば、コンサルタントが多用する「戦略」という単語。この単語がプレゼンテーションに三回以上含まれると、仕事の依頼を断るのだそうだ。A氏曰く「経営は戦争ではない。好戦的な企業の商品をお客様が喜んで手にとりますか」「“戦略”を考えることは、競合他社を打ち負かす方法や、お客さまの“攻略法”を考えること。そんなこと当社は望んでいない。お客さまも望んでいないでしょう」 ちなみにA氏の率いるこの会社、経営戦略会議は「お客様の えがお を創る ほうほう をみんなで考える会」という。
平仮名で思考する。わかりやすく提示する。このことは物事の本質に迫る一助となる。一切のごまかしがきかない。「経営戦略会議」では思考停止に陥る。「お客様の えがお を創る ほうほう」と表現して初めて深く考えるようになる。具体的な行動に思いを馳せることにもつながる。
外資系コンサルタントが多用する外来語。最悪だ。お客さまの思考停止を促すことこの上ない。
「ビューロクラシーに代表されるヒエラルキー型組織とタスクフォース組織を統合してミドルアップダウンのハイパーテキスト型組織を志向する」 分からないを超えて、もう笑うしかない。
辛口の評論家として知られる佐高信氏は、総会屋を企業にたかる「黒いダニ」、コンサルタントを「白いダニ」と評している(※1)。実体のない横文字を多用し、お客様を思考停止状態にしてしまうコンサルタントは確かに白いダニといわれても仕方がない。
私の考えるコンサルタントの仕事とは、こうだ。
「こころ(=経営理念・ビジョン)をことば(経営計画や業務計画)に乗せて、より良いこうどう(お客様を喜ばすうんどう)を目指す経営者のお手伝いを、やはり、ことばをもって行うこと」(※2)
コンサルタントが職業人として発することばは経営者の思考を深く、広くするものでなくてはならない。そして煮詰まった問題の本質に迫るものでなくてはならない。
小説家・戯曲家の井上ひさし氏の創作時の心構えとしてこんな言葉がある。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことをあくまでもゆかいに」(※3)
これは、お客さまに接するわたしたちコンサルタントの心構えでもあると思う。肝に銘じたい。
前述の佐高信氏は、(孤独な経営者は他人の意見を聞きたがる。その1つがコンサルタントの助言ではないかとの問いに答えて)「それなら坊さんの説法に耳を傾けたほうがいい」(※4)とも言う。
「むずかしいことをやさしく…」は元来、仏教者の説法の極意である「法にのっとり、比喩を用い、因縁を語るべし」を平易に言い換えたものだとも言われている。また、五木寛之氏は「他力」(講談社2000年)のなかで、「むずかしいことをやさしく」説いたのは法然聖人であり、「やさしいことをふかく」説いたのは親鸞聖人とも述べている(※5)。
私は、前例の通用しない混迷の時代に生きる現代のコンサルタントには、仏教者のメンタルを持って経営の本質に迫ることが求められていると思う。言い過ぎだろうか。
「戦略系コンサルタント」「業務系コンサルタント」では何のことがわからない。コンサルタントとしてのメンタルは、法然聖人か親鸞聖人か蓮如さんか。立ち止まって考え直してみたい。
頭でっかちな論理志向を振りかざし、「グローバル・スタンダード」という名の欧米ローカル・スタンダードを顧客に押し付け、カタカナ用語を連発しお客さまを思考停止に陥れることはもうやめにしよう。
(※1)「ZAITEN 2008年8月号」(財界展望社) P36
(※2)「成功と幸せをつかむ英国式ありがとうの会話術」(日本実業出版社 2005年)の中で、マナーコンサルタ ントとして活躍している西出博子氏は挨拶やマナーを構成しているのは3つの「こ」であるとしている。「こころ」「ことば」「こうどう」の3つである。経営の根幹も同じであると思う。
(※3)エンターテインメント業界では、ホリプロの創業者(現取締役ファウンダー)堀威夫氏をはじめとしてこの言葉を座右の銘にしている経営者は数多い。
(※4)「ZAITEN 2008年8月号」(財界展望社) P39
(※5)五木氏によると「ふかいことをひろく」説いたのは蓮如さんである。広くあまねく説くためには「愉快さ」「面白さ」がなくてはならない。その意味では蓮如さんの仕事は井上氏の「ふかいことをおもしろく」に通じるものがあると思う。
例えば、コンサルタントが多用する「戦略」という単語。この単語がプレゼンテーションに三回以上含まれると、仕事の依頼を断るのだそうだ。A氏曰く「経営は戦争ではない。好戦的な企業の商品をお客様が喜んで手にとりますか」「“戦略”を考えることは、競合他社を打ち負かす方法や、お客さまの“攻略法”を考えること。そんなこと当社は望んでいない。お客さまも望んでいないでしょう」 ちなみにA氏の率いるこの会社、経営戦略会議は「お客様の えがお を創る ほうほう をみんなで考える会」という。
平仮名で思考する。わかりやすく提示する。このことは物事の本質に迫る一助となる。一切のごまかしがきかない。「経営戦略会議」では思考停止に陥る。「お客様の えがお を創る ほうほう」と表現して初めて深く考えるようになる。具体的な行動に思いを馳せることにもつながる。
外資系コンサルタントが多用する外来語。最悪だ。お客さまの思考停止を促すことこの上ない。
「ビューロクラシーに代表されるヒエラルキー型組織とタスクフォース組織を統合してミドルアップダウンのハイパーテキスト型組織を志向する」 分からないを超えて、もう笑うしかない。
辛口の評論家として知られる佐高信氏は、総会屋を企業にたかる「黒いダニ」、コンサルタントを「白いダニ」と評している(※1)。実体のない横文字を多用し、お客様を思考停止状態にしてしまうコンサルタントは確かに白いダニといわれても仕方がない。
私の考えるコンサルタントの仕事とは、こうだ。
「こころ(=経営理念・ビジョン)をことば(経営計画や業務計画)に乗せて、より良いこうどう(お客様を喜ばすうんどう)を目指す経営者のお手伝いを、やはり、ことばをもって行うこと」(※2)
コンサルタントが職業人として発することばは経営者の思考を深く、広くするものでなくてはならない。そして煮詰まった問題の本質に迫るものでなくてはならない。
小説家・戯曲家の井上ひさし氏の創作時の心構えとしてこんな言葉がある。
「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことをあくまでもゆかいに」(※3)
これは、お客さまに接するわたしたちコンサルタントの心構えでもあると思う。肝に銘じたい。
前述の佐高信氏は、(孤独な経営者は他人の意見を聞きたがる。その1つがコンサルタントの助言ではないかとの問いに答えて)「それなら坊さんの説法に耳を傾けたほうがいい」(※4)とも言う。
「むずかしいことをやさしく…」は元来、仏教者の説法の極意である「法にのっとり、比喩を用い、因縁を語るべし」を平易に言い換えたものだとも言われている。また、五木寛之氏は「他力」(講談社2000年)のなかで、「むずかしいことをやさしく」説いたのは法然聖人であり、「やさしいことをふかく」説いたのは親鸞聖人とも述べている(※5)。
私は、前例の通用しない混迷の時代に生きる現代のコンサルタントには、仏教者のメンタルを持って経営の本質に迫ることが求められていると思う。言い過ぎだろうか。
「戦略系コンサルタント」「業務系コンサルタント」では何のことがわからない。コンサルタントとしてのメンタルは、法然聖人か親鸞聖人か蓮如さんか。立ち止まって考え直してみたい。
頭でっかちな論理志向を振りかざし、「グローバル・スタンダード」という名の欧米ローカル・スタンダードを顧客に押し付け、カタカナ用語を連発しお客さまを思考停止に陥れることはもうやめにしよう。
(※1)「ZAITEN 2008年8月号」(財界展望社) P36
(※2)「成功と幸せをつかむ英国式ありがとうの会話術」(日本実業出版社 2005年)の中で、マナーコンサルタ ントとして活躍している西出博子氏は挨拶やマナーを構成しているのは3つの「こ」であるとしている。「こころ」「ことば」「こうどう」の3つである。経営の根幹も同じであると思う。
(※3)エンターテインメント業界では、ホリプロの創業者(現取締役ファウンダー)堀威夫氏をはじめとしてこの言葉を座右の銘にしている経営者は数多い。
(※4)「ZAITEN 2008年8月号」(財界展望社) P39
(※5)五木氏によると「ふかいことをひろく」説いたのは蓮如さんである。広くあまねく説くためには「愉快さ」「面白さ」がなくてはならない。その意味では蓮如さんの仕事は井上氏の「ふかいことをおもしろく」に通じるものがあると思う。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主席コンサルタント 林 正浩