戦国時代に突入する欧州取引所
2008年08月12日
欧州でPTSを開設しようとする動きが活発になっている。取引所外での証券取引を可能とするシステムだが、目的は既存の取引所を経由する場合よりも安い取引コストを実現することである。既に稼動しているもの、まだ構想段階のものとさまざまだが、現物取引、先物取引を合わせて数多くの計画が発表されている。関わっているのは欧米の大手投資銀行やヘッジファンドなどで、ドイツ銀行、クレディ・スイス、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、メリルリンチ、シティグループなどは複数の計画に名を連ねている。
実は投資銀行が集まって、既存の取引所に対抗し、独自の取引システムを作ろうという動きは以前から存在した。ただ、なかなか具体化はされず、いつの間にか立ち消えになることが多かった。しかし、今回は以下のような点がこれまでと異なってきており、PTSがある程度の成功を収めるのではないかと予想されている。まず、EUの金融商品市場指令(MiFID)が2007年11月に発効したことで、既存の取引所(EU法に基づく規制市場)と銀行等が開設するPTSが法律的に同等に扱われるようになった。加えて、株式取引で母国の取引所への上場義務と、取引集中義務がなくなった。そして、技術進歩によって取引システムの構築にかかるコストが低減されてきており、「取引所」ビジネスへの参入障壁が低くなったとされている。
PTSが成功を収めるためには、「低い取引コスト」を武器に流動性を確保することが重要である。ちなみに、既に2007年3月末から稼動しているChi-x(在ロンドン)は、ウェブサイト上で他の取引所とのコスト比較を行い、Chi-xの取引コストはドイツやロンドンの10分の1であるとアピールしている。Chi-x の2008年4-6月期の取引金額は1325億ユーロで前年比78%の伸びとなった。一般に、PTSの方が安い執行コストを提供できる理由としては、上場会社である既存の取引所と異なり収益拡大を目指さなくて良いこと、事業規模が小さいためコストを抑えられることが挙げられている。
既存の取引所も手をこまねいているわけではない。大口取引の囲い込みを狙って今年秋の稼動を目指しているSWXヨーロッパは、スイス取引所によるPTS構築計画である。一方、ナスダックに買収されたOMX(北欧の取引所を傘下に有する)は、機関投資家を対象にした汎欧州株式のPTSを9月に稼動させる計画を進めている。
欧州の取引所はいわば戦国時代に突入しようとしており、既存の取引所、新設のPTSが入り乱れた大競争時代が幕を開けようとしている。戦国時代さながらの下克上があるかもしれないし、競争に敗れたところは淘汰されることになろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月15日
ポストコロナの人事制度を考える視点
~働く人の意識変化をどう捉えるか~
-
2021年01月14日
2020年11月機械受注
船電除く民需は市場予想に反し2ヶ月連続で増加、回復基調が強まる
-
2021年01月14日
アメリカ経済グラフポケット(2021年1月号)
2021年1月12日発表分までの主要経済指標
-
2021年01月13日
震災10年、被災地域から読み解くこれからの復興・防災・減災の在り方
『大和総研調査季報』 2021年新春号(Vol.41)掲載
-
2021年01月14日
共通点が多い「コロナ対策」と「脱炭素政策」
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2018年10月09日
今年から、夫婦とも正社員でも配偶者特別控除の対象になるかも?
配偶者特別控除の変質
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?