自己株式は消却すべきなのか?

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2008年08月04日

自己株式を取得、保有する上場会社に対して、投資家から「取得する又は保有する自己株式(金庫株)を消却しろ」との声があると、新聞などで目にすることがある。こうした声があること自体、自己株式取得が行われる一方で消却されることが少ないことの表れなのかもしれない。自己株式の消却自体が適時開示の対象と明示されていないので、必ずしもTDnet(取引所等の適時開示情報閲覧サービス)で全事例を拾えないのだが、適時開示書類を見ていると、まだ少ないのかなぁと個人的には感じている。

ところでなぜ、上場会社に対して、「保有する自己株式を消却しろ」との声が上がるのだろうか。現在、制度的には、自己株式を保有していても、消却された場合に近い取り扱いがなされている。たとえば、次のとおりである。

1)会社法上、保有する自己株式を処分するには、原則、新株発行と同じ手続きが要求されている。

2)会計上、取得した自己株式は、取得原価をもって「純資産の部」の株主資本から控除される。また「1株当たり利益(EPS)」、「1株当たり純資産(BPS)」などの計算では、自己株式数が除かれている。(※1)

3)取引所の上場基準や上場廃止基準などで問題となる「流通株式数」では、保有する自己株式は除かれている。

これに対して、消却した場合と、消却しなかった場合の違いとして制度上で思いつくのは、たとえば、金商法上の有価証券届出書が、上場会社においては、原則新株発行の場合は必要なのに対して、自己株式処分の場合には必要とされていないことなどである。

これらを考えると、制度上の問題からだけで、「消却しろ」ということにはならないのではないかと思われる。思うに、保有する自己株式が多くなると、「第三者割り当て的な方法などによりいつ市場に再放出されるのか」と、投資家に不安が生じるからなのではないだろうか。それゆえに、保有する自己株式が多い上場会社は、この不安を取り除く工夫をする必要があるだろう。実際、利用目的がない自己株式については一定以上の部分は消却するとの方針を表明する会社も存在する。そこまでいかないまでも、保有する自己株をどうするつもりなのかを説明し、理解してもらえるように努力する必要があるのではないだろうか。

(※1)「2007年版 法人投資家のための証券投資の会計・税務」(大和総研制度調査部編集・発行)の344ページ以下参照。

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