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対外資産構成の再考と日本版SWF

2008年07月31日

柏崎 重人

政府は日本の魅力再生の重要政策課題として、2010年までに対日直接投資残高をGDP比で5%の水準に高めるとの目標を掲げている。曰く、直接投資残高の対GDP比国際比較(2006年)によれば、英国(47.8%)、EU(38.0%)、米国(13.5%)、豪州(32.6%)に比して日本(2.5%)は著しく低い水準にあり、投資対象として日本を魅力あるものとしてそれを引上げるように誘導すべきである。グローバル経済との結びつきをより強化するという意味で、これはこれで歓迎すべき政策目標であろう。しかし、日本はここ30年程度、経常収支は黒字を継続しており、トータルで資本収支は流出超の状況が続いている。対日投資を云々する前に対外投資の内容について今一度、吟味をすることの方がより重要な問題ではないか。

実際、日本の対外資産は約610兆円、対外負債が約360兆円だが、資産は大半が外貨建て(特に米ドル建て)、負債は大半が円建てという内容で、日本が全体として為替レートに対して非常に脆弱な様を映し出している。ここで更に問題なのは、対外資産のうち直接投資や株式証券投資といった物権的・エクイティ資産の割合は4分の1以下と見られ、大半が国債・預金など債権的・デット資産となっていることだ。逆に対外負債は、証券投資とりわけ株式投資を中核にエクイティが中心だ。つまり海外の対日投資については、直接投資はともかく株式投資や不動産投資が相当程度進んでいると見ることができる。昨今、ファンドキャピタリズムの台頭で、日本では「企業が外資に買い占められるのではないか」と漠然とした不安を抱く向きは少なくないが、要するに日本はデットで海外に資金をファイナンスし、逆に外国からエクイティ資産を買われるといういびつな状況が進行している。仮に特定通貨や債券が実質的に無価値になるような非常事態が生じた時に、日本全体が被る損失は如何ばかりか想像に難くない。

因みに米国の状況は全く逆で、約20年前より対外資産ポジションは負債超過であるにもかかわらず、所得収支は黒字の状況を長らく続けてきた。つまり、外国からデットによって調達した資金コストを対外投資に回し、そこから得られる配当・キャピタルゲインの類が外国の対米投資・資産からの収益に比べて高い状況にあった。特にドル安が進む局面では、外国投資・資産からの収益が自国通貨建てで切り上がり、高収益を得られるという構図となっている。

こうした状況下で改めて考えねばならないのが、日本版SWFについてである。先般、自民党の国家戦略本部(SWF検討プロジェクトチーム)は日本版SWFの設立を提言する中間報告を取りまとめた。ただ、運用原資は公的年金(年金積立金管理運用独法:GPIF)の一部(10兆円)を切り出すとするに止め、原資として想定されていた外国為替管理特別会計(外貨準備)については中長期の課題として当面の活用は想定されなかった。

そもそも昨今話題のSWFは、一般に産油国や輸出競争力の高いアジア諸国などで、(民間経由・不経由を問わず)政府が獲得した外貨をどのように運用すべきか追及した結果の産物である。これら国政府の外貨収入は、かつては中央銀行に保有されることで資金が国内に還流され、一方で外貨準備として流動性の高い先進国の債券(特に米国債)や金など貴金属に投資されるのが常だった。

しかし近年は、外貨準備が輸出入の決済に必要な残高を大きく超過する水準に達し、インフレや自国通貨高を抑制する目的などから同超過部分をSWFに移管(不胎化)して、より積極的な運用を行う動きが進んだ。特に伝統的に米連邦国債に投資する傾向が強かったものが、他通貨政府証券や同じ米ドルでもデットではなくエクイティ投資へと分散投資を進めてリスク管理重視の運用に切り替え始めたことが、「SWFの台頭」として大きく注目されるに至った第一の理由である。結局、SWFの資産運用積極化の裏には、米国の巨額な経常赤字とそのファイナンス状況の継続などからもたらされる「ドル不安」へのヘッジという現実が横たわっている。

翻って日本では、日米関係に不協和音が生じかねない点を重視しすぎるためか、あるいは国全体で巨額に積上がったドル資産の円建て価値の下落をおそれてか、外貨準備に関する議論が未だ活発になっているとは言い難い。先般のGPIFを日本版SWFとして活用する構想にしても、分割管理・運用など評価できる点もあるが、既に相当程度プロを活用して資産運用を実施しているGPIFを、敢えて衣替えさせるだけの説得力には欠けると感じるのは筆者だけではあるまい。今後の日本版SWF設立論議においては、本邦対外資産構成の再考という視点から外貨準備のあり方を今一度問い直すことが必要だろう。

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