値上げに踏み切る台湾ハイテク企業

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2008年07月28日

  • 杉下 亮太
DRAMやフラッシュメモリー、液晶パネルのように需給次第で値上がりすることもある市況商品は除き、ハイテク産業では価格下落が当然とみなされ、値上げは通るものではないと長らく思われてきた。

しかし、一部の品目では08年になって値上げを実施する動きが表面化している。特に顕著なのがノートPCセクターである。ノートPCに使用される部材のうち、電池については昨年から価格が値上がりしているが、今年は筐体やキーボード、アダプターなどでも値上げが実施された。そのほかのノートPC部材でも値上げを試みる動きがあるようだ。部材価格の上昇圧力を受けて、ノートPCのODMメーカーもPCブランドに対して値上げを打診している。ノートPC関連以外の業種でも、半導体ファウンドリーのTSMCが09年の価格について値上げ実施の方針を明らかにした。これら台湾のハイテク企業にとって、値上げは史上初めての出来事といってよい。

このような台湾企業による値上げ実施ないし打診は、コスト増を理由にしている。ノートPC関連企業は、多くが中国の人件費増大や原材料価格の上昇に直面している。TSMCは台湾での電力料金値上がりを一因に挙げている。従来はコストが上昇したとしても、顧客との関係や業界内での立場から値上げはなかなか通らなかったが、今回は一部とはいえ値上げが通り始めているのは、台湾企業の採算がそれだけ厳しくなってきたということだろう。実際、ノートPCのOEMメーカーは、営業利益率が2%前後まで低下している。

 それだけでなく、台湾企業の立場が強くなったことも関係しているといえそうだ。ノートPCの製造は9割が台湾企業によって行なわれている。筐体やキーボード、電源といった部品も台湾企業のシェアが大半を占めるに至った。値上げ幅がコスト上昇分の範囲に収まるのであれば、台湾企業のシェアが低下する可能性は小さいだろう。また、TSMCは技術力に支えられ、ファウンドリー業界において圧倒的な地位を築いている。値上げによって顧客離れが進むことはないだろう。

中国の賃金水準上昇や原材料価格の上昇が続くのであれば、台湾ハイテク企業による値上げの動きは今後も続くとも考えられる。ハイテク産業では価格は下落のみしか生じないという時代は変わりつつあるのかもしれない。

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