貯蓄から消費へ

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2008年07月22日

  • 佐藤 清一郎
「貯蓄から消費へ」。今の日本には、これが必要だ。特に、高齢者層に偏在して、経済活動からは切り離された存在となっているような資金を、消費を通じて現役世代に還流し、経済活動の活発化につなげることが重要である。この流れを実現するには、高齢化社会対応型のインフラ整備が求められる。

現在、多くの日本人が漠然とした将来への不安を抱いているが、その原因の一つは、経済社会構造にある。日本は、高成長時のインフラを引きずった状態で、低成長時代に突入しているのである。成長重視で、民間部門の育成が急がれた時代に、官が主導して産業育成を行った際には、社会保障分野などのセーフティネットはそれ程必要なかった。何故なら、高成長で若者が多かったからである。成長戦略は成功して物があふれる時代となり、また、高成長から低成長時代へと変化、人口構成は高齢者の割合がどんどん増えてきている。成長戦略を目指した時代とは、だいぶ世の中が変わっている。

だから、思い切った構造改革が必要なのに、実際には、中途半端にとどまっている。世の中の構造にフィット感がない。フィット感を得るには、低成長と高齢化という目の前の現実を受け止め、財源確保に向けた税制改革や現実対応型の社会インフラ整備が必要である。税制面は、負担率や直間比率見直しなど、インフラ面では、安価な料金で入居できる高齢者ホームや、既存の施設を再利用した形で交流を維持できる地域コミュニティ創設、介護施設の充実などである。また、未経験の人も手軽に農業が体験できる施設の充実なども高齢者の気力充実にインセンティブを与えるだろう。

実現に向けては、整備に伴う資金負担問題が立ちはだかるが、少子・高齢化という日本の将来の姿を国民に浸透させる努力や高齢化社会対応型インフラ整備の効果を説明すれば、世代を超えて理解を得られる可能性は高まるだろうし、また、将来的には高齢者割合増加で、負担問題は、世代間ではなく、徐々に高齢者世代内へとシフト、受益者増で負担への理解は深まることが予想される。

いろんな面で、高齢化社会対応型インフラ整備が進めば、それを利用するかしないかは別として、老後の生活に、かなり安心感が得られる。高齢者はもちろん、潜在的高齢者である現役世代の人も含め、人々の気持ちも変わってくるだろう。こうなれば、漠然とした不安も解消され、貯蓄から消費への流れが生まれる土壌ができる。ここに、高齢者層に偏在している金融資産の有効活用の道が開ける。すなわち、不安を解消された高齢者層は貯蓄目的が薄れ、消費行動を活発化させる可能性が大きい。この行動変化は、金融資産の世代間格差是正にも好ましい影響を与えるだろう。

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