中国にとっての北京オリンピック

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2008年07月18日

  • 田代 秀敏
「北京・上海は、オリンピック・万博を控えて、すべてのことが、あっと言うまに、世界標準に達するでしょう」と、社長に最近就任したばかりの島耕作氏は、常務であった時に語っている(広兼憲史『常務 島耕作6』講談社2007年174ページ。読点は引用に際し追加)。

しかし、今年5月の四川大地震の後の動向を見ても、中国共産党による「領導」(上下関係を前提とする指導)は、緩和されるどころか強化されている。危機への対処に党の軍隊である人民解放軍を出動させなければならないのは、1989年の天安門事件や2003年のSARS流行の時と同じである。また、人民解放軍の兵士たちが瓦礫の山を人力で掘り起こす光景は、改革開放以前の1976年に起きた唐山大地震の時と、ほとんど変わりがない。

北京オリンピック直前の現時点での中国の景気を見るために、中国の国家統計局が発表する宏観(マクロ)経済景気指数の推移をグラフに描いてみる。この指数は、工業生産、就業、投資・消費・外国貿易、税収・企業利潤・家計収入の4方面の指標を合成したものであり、100よりも大きければ大きいほど経済過熱がより深刻であることを表し、100よりも小さければ小さいほど経済過冷がより深刻であることを表す。

中国宏観(マクロ)経済指数(1991年1月-2008年5月)



グラフを見ると、1997年のアジア通貨危機が景気の下降局面の入り口で起きたのに対して、2007年のサブプライム問題拡大は国内景気の上昇過程で起きている。また、1998年の長江大洪水が景気の底で起きたのに対して、2008年の四川大地震は経済が過熱から巡航速度に移った時点で起きている。さらにグラフは、中国の経済が、市場経済としての未成熟が幸いし、大洪水や疫病流行といった災害に「打たれ強い」ことを示している。そこから、北京オリンピックの終了くらいのイベントでは、景気に対するショックにならないだろうと推測される。

中国にとって、北京オリンピックは東京オリンピックのコピーではない。中国が西欧化するためのステップでもない。「中華民族の偉大な復興」のステップのひとつなのだろう。現に、北京オリンピックのメイン・スタジアムは、そこに集まる「気」が、天安門広場にある毛主席紀念堂に安置されている毛沢東に流れ込むように、中国式の風水にしたがって天安門広場の真北に建設されている。

中国は中国である。日本ではない。中国ビジネスも、日中友好も、成功の鍵は、中国固有の思考や法則を知ることにあるのだろう。

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