公的年金が目指す方向性について

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2008年07月08日

  • 川岡 和也
公的年金制度に関する議論が盛んだ。社会保障国民会議が6月19日にまとめた中間報告でも、第一分科会で公的年金制度のあり方について論じている。ここでは、例えばいわゆる保険料未納問題については、それが原因で現行制度が財政的に破綻するという議論は正しくないという観点が示されている。一方で、未納問題は将来の低年金・無年金者の発生と彼らの所得保障のための生活保護等の負担増を引き起こすことが予想されるが、この点については、現在の財政方式でも基礎年金に投入されている税財源を活用して納付免除の措置を講じることにより、税方式の利点である無年金者の救済が可能であり、そのため税方式、社会保険方式を対立的にではなく補完的に捉える視点が重要であるとしている。

確かに現行の社会保険方式のままでも、様々な工夫と徹底により制度の円滑な運営は可能になるかもしれないが、やはり現行の制度が分かりにくく手続きの漏れや誤りが発生しやすいのは事実だろう。我々国民の誰もが受給の権利を持ち、同時に保険料納付の義務を負う制度であるならば、その手続きの負担感は無いほうが良いし、複雑さから来る徴収・記録事務の不備・不正はあってはならない。何よりも、不信感も絡んでの不公平感から制度への期待の喪失感、延いては、出来れば保険料を納めずに別の金融資産に投資したいと思う気持ちが多くの国民から芽生えてしまうようでは、せっかく制度を社会保険方式=助け合い方式としている意義も薄れてしまうというものだ。公的年金のこれまでの度重なる給付抑制策を経験している国民の中には、将来もまたどうせ何らかの引き下げが行われ裏切られるだろうとの思いを持っている人も少なくないのではないだろうか。

制度の仕組みについても根本的なところで疑問が湧く。自営業の国民年金は定額保険料で基礎年金だけ、サラリーマンの厚生年金は保険料は給与比例で給付は基礎年金(定額)と報酬比例年金の組合せ、というのは改めて考えると理解しがたい仕組みである。自営業者の正確な所得把握が困難な点が理由とされるが、それは本末転倒だろう。そこで、移行期については年齢別に段階的な対応が必要になるだろうが、例えば、全国民加入の基礎年金は消費税での税方式とし、一方で厚生年金の報酬比例年金については就業形態によらず国民共通に加入できる、税制優遇機能を有する自助努力ベースの高齢期資金積立てサポート制度に衣替えするという方法も考えられる。これにより、高齢期の所得確保は自助を基本としながら、基礎年金部分については消費税方式とすることにより受給者世代の制度運営への参画意識を醸成することになり、世代間対立意識も緩和し、何よりも国民全体で「生涯現役社会」の実感を共有することにつながるのではないだろうか。

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