公的年金が目指す方向性について
2008年07月08日
確かに現行の社会保険方式のままでも、様々な工夫と徹底により制度の円滑な運営は可能になるかもしれないが、やはり現行の制度が分かりにくく手続きの漏れや誤りが発生しやすいのは事実だろう。我々国民の誰もが受給の権利を持ち、同時に保険料納付の義務を負う制度であるならば、その手続きの負担感は無いほうが良いし、複雑さから来る徴収・記録事務の不備・不正はあってはならない。何よりも、不信感も絡んでの不公平感から制度への期待の喪失感、延いては、出来れば保険料を納めずに別の金融資産に投資したいと思う気持ちが多くの国民から芽生えてしまうようでは、せっかく制度を社会保険方式=助け合い方式としている意義も薄れてしまうというものだ。公的年金のこれまでの度重なる給付抑制策を経験している国民の中には、将来もまたどうせ何らかの引き下げが行われ裏切られるだろうとの思いを持っている人も少なくないのではないだろうか。
制度の仕組みについても根本的なところで疑問が湧く。自営業の国民年金は定額保険料で基礎年金だけ、サラリーマンの厚生年金は保険料は給与比例で給付は基礎年金(定額)と報酬比例年金の組合せ、というのは改めて考えると理解しがたい仕組みである。自営業者の正確な所得把握が困難な点が理由とされるが、それは本末転倒だろう。そこで、移行期については年齢別に段階的な対応が必要になるだろうが、例えば、全国民加入の基礎年金は消費税での税方式とし、一方で厚生年金の報酬比例年金については就業形態によらず国民共通に加入できる、税制優遇機能を有する自助努力ベースの高齢期資金積立てサポート制度に衣替えするという方法も考えられる。これにより、高齢期の所得確保は自助を基本としながら、基礎年金部分については消費税方式とすることにより受給者世代の制度運営への参画意識を醸成することになり、世代間対立意識も緩和し、何よりも国民全体で「生涯現役社会」の実感を共有することにつながるのではないだろうか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年01月15日
ポストコロナの人事制度を考える視点
~働く人の意識変化をどう捉えるか~
-
2021年01月14日
2020年11月機械受注
船電除く民需は市場予想に反し2ヶ月連続で増加、回復基調が強まる
-
2021年01月14日
アメリカ経済グラフポケット(2021年1月号)
2021年1月12日発表分までの主要経済指標
-
2021年01月13日
震災10年、被災地域から読み解くこれからの復興・防災・減災の在り方
『大和総研調査季報』 2021年新春号(Vol.41)掲載
-
2021年01月14日
共通点が多い「コロナ対策」と「脱炭素政策」
よく読まれているコラム
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2020年10月29日
コロナ禍で関心が高まるベーシックインカム、導入の是非と可否
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?
-
2018年10月09日
今年から、夫婦とも正社員でも配偶者特別控除の対象になるかも?
配偶者特別控除の変質