ドルで原油の価値を測れるのか
2008年06月24日
原油価格上昇の要因は主に需要拡大と、投資資金の流入等に分けて考えられることが多い。需給要因と金融要因それぞれがどの程度の説明力を持つのか、WTI原油先物を対象とする回帰分析を行った。その結果、需給が原油価格上昇のおよそ半分を説明してきたものの、近年は説明が困難であり、いくつかの金融要因を加えた推計で、足元の原油価格が金融要因によって押し上げられた可能性が示唆された。金融緩和の度合いと投資家のリスク許容度の動向(金融資産のシフト)が影響を及ぼしてきたとの解釈が可能である。加えてドルの下落要因を考慮する必要がある。
以上ではドルの下落は考慮されていない。だが、WTIはもともとドル建てであることから、そのままではドルの変動と原油の価値の変動は分離できない。そこで、金(Gold)の価格を用いた調整を行った。経年変化が生じない金は、宝飾品や産業で用いられるコモディティであると同時に、古来、通貨としての性格を有してきた。特に「有事の金」と称されることもあるように、基軸通貨の価値に揺らぎが生じるような事態が起こった場合にしばしば重視される。1バレルの原油を「USドル」ではなく、「トロイオンス」で計測するのである。
金価格で調整されたWTI(以下、調整WTI)は、長期的にみるとドル建てWTIと概ね似た変動をしているが、2005年以降に乖離が広がり始め、足元の調整WTIはかなり低い水準にある。前年比ベースでみた場合でも上昇幅は限定的で、金で測った原油の実質的な価値は、相対的に上昇していない。この時期のドルの下落ペースは極めて速い。名目実効レートをみると、金融市場の混乱が深まる07年後半以降は下落の足を速め、前年比マイナス10%前後に達している。この下落ペースは、プラザ合意後の1986年以来の出来事である。ドル建てWTIが調整WTIに比べて高騰したのは、ドルの購買力が急速に失われたことによると考えられよう。
無論、ドル以外の通貨は相対的に上昇しており、ドル以外の通貨を保有する需要主体にとって、ドルの減価で原油価格上昇が相対化され、需要の落ち込みは小さくなる。貨幣が持つ機能のうち、ドルの「価値の貯蔵手段」としての機能が低下し、最近になって、さらに「価値を測る手段(価値尺度)」としての位置づけに揺らぎが生じ始めているとの理解が可能である。
冒頭の推計に金価格の変動を加えたところ、05年以降、足元にいたるまでの数年間の推計誤差が極めて小さくなった。需要の持続的な拡大と緩和的な金融環境のもとで、投資資金の流入を招き、さらにドルの下落が原油の本質的価値を表現できなくなったことで、ドル建ての原油価格が高騰したと言えるだろう。
以上ではドルの下落は考慮されていない。だが、WTIはもともとドル建てであることから、そのままではドルの変動と原油の価値の変動は分離できない。そこで、金(Gold)の価格を用いた調整を行った。経年変化が生じない金は、宝飾品や産業で用いられるコモディティであると同時に、古来、通貨としての性格を有してきた。特に「有事の金」と称されることもあるように、基軸通貨の価値に揺らぎが生じるような事態が起こった場合にしばしば重視される。1バレルの原油を「USドル」ではなく、「トロイオンス」で計測するのである。
金価格で調整されたWTI(以下、調整WTI)は、長期的にみるとドル建てWTIと概ね似た変動をしているが、2005年以降に乖離が広がり始め、足元の調整WTIはかなり低い水準にある。前年比ベースでみた場合でも上昇幅は限定的で、金で測った原油の実質的な価値は、相対的に上昇していない。この時期のドルの下落ペースは極めて速い。名目実効レートをみると、金融市場の混乱が深まる07年後半以降は下落の足を速め、前年比マイナス10%前後に達している。この下落ペースは、プラザ合意後の1986年以来の出来事である。ドル建てWTIが調整WTIに比べて高騰したのは、ドルの購買力が急速に失われたことによると考えられよう。
無論、ドル以外の通貨は相対的に上昇しており、ドル以外の通貨を保有する需要主体にとって、ドルの減価で原油価格上昇が相対化され、需要の落ち込みは小さくなる。貨幣が持つ機能のうち、ドルの「価値の貯蔵手段」としての機能が低下し、最近になって、さらに「価値を測る手段(価値尺度)」としての位置づけに揺らぎが生じ始めているとの理解が可能である。
冒頭の推計に金価格の変動を加えたところ、05年以降、足元にいたるまでの数年間の推計誤差が極めて小さくなった。需要の持続的な拡大と緩和的な金融環境のもとで、投資資金の流入を招き、さらにドルの下落が原油の本質的価値を表現できなくなったことで、ドル建ての原油価格が高騰したと言えるだろう。
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