寝る時間が減ると、株価が上がる
2008年06月06日
「寝る」ことは人間を含む動物が生きていくうえで最も必要なことの1つだ。だから我が国に伝わる「ことわざ」にも寝ることを取り上げたものが多い。「寝耳に水(不意の出来事)」「寝返りを打つ(味方を裏切る)」「寝首を掻く(不意討ちにあう)」などがある。そしてふと考えると、こうしたことわざの多くは「寝ることを、人間の後ろ向きな行動」と捉えるものが多い。果報は寝て待てということわざがある。よく誤解されるが、果報の果は良い結果を示す一方、報はむくいを受けることだ。そして何もできないことを「寝る」ことで表す。そもそも懸命に努力した結果は良きにせよ、悪しきにせよ慌てず、成り行きに任せるしかない。そして株式投資こそ「果報は寝て待て」を実践すべきだ。ジックリと銘柄選択した後は、目先の株価が多少変動しても、慌てずに「寝るようにして」結果を期待することだ。
ところで睡眠と株価は強い関係があると聞くと驚くかもしれない。しかし寝ることは人間にとって重要な行為だけに、行動ファイナンス論(人間の心理に関わることは、一見すると経済に関係なさそうでも株価の変動に強い関係があるという理論)に裏付けされて株価と関係が強いようだ。実際に平均睡眠時間と株価の関係を調べてみた。平均睡眠時間は、総務省の「社会生活基本調査」で5年ごとに行われるもので、15歳以上の男性の平均睡眠時間を使った。直近の2006年調査は7回目だ。この平均睡眠時間と日経平均の推移は逆に連動する。つまり睡眠時間が減ると日経平均は上がり、反対に睡眠時間が増えると日経平均は下がるのだ。統計的なデータの処理と2つの情報の関係を測るものに相関係数がある。これらの2つの情報の相関係数は-0.81と高い逆相関の水準となった。例えば、石村貞夫著『すぐわかる統計解析』によるとこの-0.81は「強い逆相関がある」と説明されている「睡眠が減ると株価が高い」関係が極めて強いことがわかる。そして睡眠時間と株価の関係をより分かり易く捉えるため、睡眠時間が減った場合にどの位の確率で株価が上がるか?を見た。この結果、平均睡眠時間が減ると日経平均は8割の確率で上がることが分かった。反対に睡眠時間が増えると日経平均は100%の確率で下がっている。
では何故、睡眠時間が減ると株価は上がるか?睡眠時間が少ないことは、仕事や余暇の充実が背後にあるからかもしれない。忙しければ寝る時間が削られるからだ。仕事の充実は景気が良いことに繋がる。この反論には、景気が悪い時こそ働かなければ、と考える人もいるだろう。この見方だと景気が悪いと寝る時間が少なくなることになる。しかし働く時間の確保(寝る時間は減るだろう)は経済活動をプラスに向かわせる大きな要因の1つとなろう。一方、寝る時間が減り余暇に時間が使われるようになるケースも個人の消費に繋がり経済活動を活発にさせるだろう。近年は健康に関する意識が高まっている。適切な睡眠時間に関して様々な議論があるが、日米の研究報告からは7時間睡眠が人間の効率性を高める水準とされている。寝る時間を削ることは良いとは一概に言えないが「休みは予定がなくて寝ていた」とか、「やることないし、すぐ寝ている」などの言葉を周りから聞いたら、株価は危険かもしれない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
「責任ある積極財政」下で進む長期金利上昇・円安の背景と財政・金融政策への示唆
「低水準の政策金利見通し」「供給制約下での財政拡張」が円安促進
2025年12月11日
-
FOMC 3会合連続で0.25%の利下げを決定
2026年は合計0.25%ptの利下げ予想も、不確定要素は多い
2025年12月11日
-
大和のクリプトナビ No.5 2025年10月以降のビットコイン急落の背景
ピークから最大35%下落。相場を支えた主体の買い鈍化等が背景か
2025年12月10日
-
12月金融政策決定会合の注目点
2025年12月12日

