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アイディア未満

2008年05月27日

中島 節子

ある飲み会に誘われた。その中でひときわ目立つAさんが
「今度、法令改正があるから、その対策を急がないと。上司に言っても暖簾に腕押し。ちっとも動かない。」
とこぼしている。Aさんは最近ライン次長に抜擢されたばかりで弾けんばかりだ。
「言っても、誰も動かない。他の誰にも指示しないんだ。」
とお酒の勢いもあってAさんの勢いは止まらない。何かアイディアを出しているようであるが、「なるほど、それじゃあ・・・・・。」とノリ良く続いてこないようだ。ただ、この「言っている。」は、くせものだ。私がAさんの部下だったら、Aさんは明日、私にどんな指示をするのだろう。Aさんの「言っている。」を聞いても、その先にある業務が見えてこないのだ。

勉強をしない子に、ただ「勉強しなさい。」といっても、効果はない。勉強しない子は、何をやったらいいのかわからないのだから、教科書を開こうともしない。どの科目の、どの部分を、どういうふうに、どのくらいやったらいいのか、わからないのだ。そういう子には「夕飯まで30分あるから、その時間で、この計算ドリルの12ページをやってみようよ」と言ってみたらどうだろう。ドリルを開かないような子なら、そのページを開いて少し解いてみせる。ちょっと過保護すぎるようだが、それぐらいやらないと動かない者を動かせない。具体的に動ける提案が大切なのだ。

かつて私が外部機関へ出向するとき、その心得として、上司が一言だけ言った。
「相手に選ばせろ。」
いくつかプランを作って、その中から選択してもらう。発案はこちらだが、相手はもともとそういうプランを探していたのであり、それを選択したのだから主導権は相手にわたる。あくまでも当方は黒子となり、相手の指導の下、プロジェクトを進める手法だ。しかし、手のひらを広げて「どうぞ」とかっこよく、アイディアを提供できるものではない。
「君はよく言ってくるけど、実際に動けるのは10のうち、1つあるのかな。」
とからかわれているうちはよかったが、そのうち私のレベルは知れたところとなり、私の顔を一瞥するだけで、つき返される始末であった。そしてある時、一言
「自分でやってみれば。」
言われてみて、私は初めて気がついた。自分が動けないことを。私の「言っている。」は思い付きの範疇を出ず、アイディア未満だったのだ。

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