ソブリン・ウェルス・ファンド、ヘッジ・ファンドは、企業支配のルールをどう変えるのか?

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2008年05月20日

  • 吉川 満
日本経済新聞が5月11日に、『欧米の年金・運用6社連携/日本企業に改革要求』と言う記事を掲載した。これによれば、米国・カナダ・英国などの有力年金・運用会社6社が、15日前後に、コーポレート・ガバナンスの改善を要求する提言を纏め、15日前後に発表するという事である。

これを読んで驚かれた人も少なくないだろう。日本の企業は株主の権利を十分に考慮していない、と言う批判が従来からあり、この批判に答えるために、日本の企業は株式持合いの慣行をスケールダウンさせ、ポイズン・ピル(ライツ・プラン)と言う米国も採用している防衛策にシフトしてきたはずであった。それでもなお十分でないというのだろうか?

実は現在世界の株式市場において、投資家サイドの勢力に若干の変化が見られるのである。欧米の金融機関が等しく、【証券化金融商品問題】の痛手を被り、従来のような力を発揮することはできなくなった。代わってぐっと勢力を伸ばしたのが、ソブリン・ウェルス・ファンド、ヘッジ・ファンド、プライベート・エクイティ・ファンドなどの、いわゆる【ファンド】である。

欧米の大手金融機関も、【証券化金融商品問題】から立ち直るために、積極的にこれら【ファンド】からの資金を受け入れているので、ファンドをこれからの金融システムの中に組み込んでいく方向で考えざるを得ないのである。従って、例えば従来はソブリン・ウェルス・ファンドに距離を置いて考えていたような論者でも、今後はその主張に耳を傾けていかざるを得ないのである。

従って、従来であれば、ポイズン・ピル(ライツ・プラン)を導入してあるから、これで完璧に防衛できると考えられたような場合でも、今後は果たしてポイズン・ピルによる防衛が妥当な事なのかどうかといった所まで振り返って考える事が必要になるかもしれない。

尤も、これは日本だけに突きつけられた課題と言うわけではない。日本以上にポイズン・ピルが普及している米国の企業も、日本と根本のところでは同じ問題に直面しているのである。米国はアブダビ、シンガポールの二国から、ソブリン・ウェルス・ファンドを受け入れる事を既に決定した。米国はアブダビ・シンガポールとの契約において、【SWFを受け入れる国は、潜在的に防御的な、ポートフォリオ投資の防衛策、海外直接投資の防衛策をとってはならない。】と言う方針で、政策原則を発表したことを明らかにしている。

尤もこの規定があるから、直ちにポイズンピルは無効、とまで考えているのではないであろう。SWF側に対しても、【SWF投資の政策決定は、直接的にせよ、間接的にせよ、支配する政府の地政学的目的を推進するのでなく、もっぱら商業的な目的のために行われなければならない】と定めていることからもそのことは伺われる。しかし、ともあれ従来に比べ行ってよいポイズン・ピルと、そうでないポイズン・ピルとの間の線引きが難しくなっていることは確かであろう。

この点について、日本も早急に世界と一緒になって結論を出していかねばならないことになる可能性がある。

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