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マカオ:もう1つの特別行政区(SAR)の光と影

2008年05月15日

牧野 正俊

中国にとって、香港と並びもうひとつの特別行政区(SAR)であるマカオの高成長がめざましい。07年の実質GDP成長率は前年比27%に達した。カジノやホテル建設ブームによる固定資本投資の大幅な伸びと、海外居住者の娯楽関連消費による経済効果が牽引となっている。政府収入も70%がカジノからの税収であり、まさにカジノなくしては、マカオ経済は成り立たない。

ポルトガルの植民地であったマカオでは、99年の中国への返還後も「カジノ王」と称されるスタンレー・ホー氏が率いるSTDMがカジノビジネスを独占してきた。しかし、カジノ産業が02年に米国系、香港系などの外資に開放され運営主体が計6社になると、市場が一気に拡大した。

昨年は、米国のカジノ・リゾート運営会社であるラスベガス・サンズの「ベネチアン・マカオ」をはじめ、巨大なカジノが次々とオープンし、今後も大規模な開発が目白押しである。既にマカオのカジノ売り上げは、米国のラスベガスとアトランティック・シティの合計を上回っており、今後も大幅な伸びが見込まれている。

このカジノ・ブームを支えているのが、中国大陸を中心とする中華圏からの旅行者である。居住者数53万人のマカオが受け入れる年間旅行者数は2,700万人。このうち中国大陸が1,487万人、香港からが818万人、台湾からは144万人。実に90%がマカオ域外の中華圏からの旅行者である。ちなみに日本からの旅行者は30万人と、97年の水準を10年ぶりに上回った。日本とマカオとの直行便も増便が予定されており、今後も日本からの訪問客の増加が予想される。

目下のカジノ・ブームが続く限り景気も政府財政も拡大するわけであるが、この背後で問題点も浮上している。

最大の懸念は加速するインフレである。消費者物価上昇率は前年比9%を越えており、2桁に達するのは時間の問題である。マカオの通貨であるパタカが実質的に米ドルとリンク(US$1=約8パタカ)しているため、人民元高、ドル安が昨今の世界的なエネルギー・食品価格の上昇によるインフレに拍車をかけている。

人手不足も深刻である。失業率は歴史的な低水準である2.9%まで低下した。ホテルやカジノでは、従業員の引き抜き合戦で、職種によっては給与水準が高騰している。

カジノ・娯楽産業に偏った好景気の中、貧富の差が拡大するという社会問題も表面化しつつある。GDPを単純に居住民の人数で割った一人当たりGDPは30,000米ドルを優に超えるが、多くのマカオ住民の所得はこれをかなり下回っているというのが現状だ。昨年5月には汚職撲滅や労働環境の改善などを求めたデモ隊が警官隊と衝突し、警官隊の発砲で負傷者が出る騒ぎとなった。

こうした中、エドモンド・ホー行政長官は4月に「中央政府からの懸念」を考慮して、これ以上のカジノ免許の供与や、カジノ向け土地開発の凍結を発表した。また、インフレ対策として、マカオの永久居民に現金625米ドルを支給することを発表した。

5月の聖火リレーを前に、昨年のデモ隊のような騒ぎを起こして無用な国際的非難を受けるような事態は避けたい、という意図が働いたのかどうかは定かではないが、固定資本投資の高い伸び、旺盛な消費、インフレ、拡大する貧富の差、そしてトップダウンの政策の唐突な導入など、中国の縮図ともいえる状況がもうひとつの特別行政区でも繰り広げられている。

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