ドル相場底打ちの道筋

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2008年05月13日

  • 亀岡 裕次
米ベアー・スターンズ・ショックを背景に売り込まれたドル相場は、その後持ち直している。FRBが算出・公表しているドルの実効為替レートは、主要通貨ベースで3月18日の69.2631をボトムに71.3296へと上昇している(5月8日現在)。

ドル反転上昇のきっかけは、信用不安が後退し、米国の株価や金利が上昇し始めたことにある。FRBが矢継ぎ早に流動性供給策を実施したことにくわえ、欧米金融機関の1-3月期決算が想定の範囲内におさまったことが、市場の信用不安を鎮め、ドル売りを抑える役目を果たした。さらには、インフレリスクを考慮してFRBが利下げを打ち止めるとの観測が広がり、米金利先安観が後退したこともドル買いの要因になった。今後、再び信用不安が台頭して株価が下落したり、景気減速懸念から米国の利下げ期待が復活したりする可能性はあるだろう。しかし、米国の金利が再び低下するにしても、急速な低下局面は終了し、ドル売り圧力は以前ほどには強まりにくいと考えられる。

米国だけの景気減速から世界全体の景気減速へと経済状況は変わりつつある。それは、サブプライム問題による米国景気の減速が世界に波及しているだけでなく、エネルギーや食品などの一次産品インフレが消費国の景気に悪影響を及ぼし始めたからだ。これまで堅調だったユーロ圏経済はユーロ高効果もあって輸出が減速し、個人消費など内需にも減速感が目立つようになってきた。また、加工貿易型が多いアジア諸国も原材料高が企業収益を圧迫するようになり、経済の先行きへの懸念が広がりつつある。米国経済だけが弱い状況ではドル売りを招きやすかったが、米国以外も弱くなり始めたことで欧州通貨やアジア通貨などが売られ、ドルが買い戻されている。

これに商品市況の下落が加わると、資源国通貨売り・ドル買いも招き、より一層ドル高は強固なものとなる。過去の経験則からすると、株価が下落に転じてから半年ほどたつと、景気が明確に減速し始め、商品市況は下落に転じやすい。今がまさにそのタイミングだ。代表的な商品指数をみると今も商品相場は上昇しているように映るが、実は原油などエネルギーを除くとすでに下落は始まっている。新興国のエネルギー消費拡大や地政学的リスクがエネルギー高の原因だが、08年のエネルギー消費は5年ぶりの低さになるとみられる。商品高・ドル安から商品安・ドル高への変化は始まりつつあるのではないか。

ドルをとりまく環境は変化し、ドル相場の底打ちが明確化していこう。今後ドルが100円を割り込んでも、それは世界的な株安と金利低下を背景とした円高であり、ドルの実効為替レートが底割れすることはないだろう。

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