注目される水道事業の動向

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2008年04月24日

  • 中里 幸聖
前世紀は石油が国際紛争の要因の一つとなっていたが、今世紀は淡水が死活的な影響を及ぼすと推測される。

今度の洞爺湖サミットでは、ミレニアム開発目標(MDGs)の中間年であることも踏まえて(※1) 、水問題もテーマの一つとなっている。MDGsでは、「2015年までに、安全な飲料水及び衛生施設を継続的に利用できない人々の割合を半減する」とされている。

淡水資源は他の重要資源と同様に偏在が見られるが、海水淡水化技術の進展により淡水の絶対量確保策はそれなりに存在する。現に中東地域では続々と造水プラントの能力拡張が進んでいる。ただし、漏水率が5割に達するような地域もあるようで、せっかく造った水の配給には解決すべき課題が多い。また、地球温暖化に伴う雨量の季節的変動激化や砂漠化進行なども、淡水資源の安定的確保に支障をきたしている。

こうしてみると淡水資源を安定的に確保・配給する水道事業の重要性はますます高まっていると考えてよい。

ところで、わが国の水道事業は基本的に市町村単位の公営企業形態で実施されている(※2) 。水道事業は生命に直接関わるインフラであり、安定供給と継続性の確保が何よりも重視される。また、日常的かつ絶対的な必需品であるため、価格は低位に抑えられている。そのため、公益性がより重視され、行政が直接提供するサービスと位置づけられている。

一方、英仏等ではかなり以前から民間事業者が水道事業の運営を実施し、近年では積極的に海外展開している。わが国にも徐々に進出しつつあるが、本格的な水道事業の一括運営の獲得にまではまだ至ってはいないようだ。

ただし、「官から民への」構造改革や厳しい財政状況を背景に、公民連携さらに進んで民営化という方向性が検討されている。1999年のPFI法施工、2002年の水道法改正による第三者への業務委託制度化、等々民間的経営手法導入に関連する制度改正が進められている。

わが国の水道水は品質が下がっているとの批判も国内では聞かれるが、発展途上国も含めた世界的視野からすれば、そのまま飲めるという意味で高い品質を維持していると見ても良い。また、漏水率も非常に低く、例えば、東京都水道局における2006年度の漏水率は3.6%とのことである。

以上の状況を鑑みれば、わが国の水道事業は既存の枠組みから発想を転換し、広域化促進を含む国内での事業力を強化するとともに、国内で蓄積したノウハウを活かして世界市場に進出する方向を探ってみても良いだろう。そうすることによって、わが国の地方行財政改革に資するのみならず、MDGsの達成への貢献を通じて、紛争防止にも資することになると思われる。

(※1)2000年の国連ミレニアム・サミットで採択された国連ミレニアム宣言と1990年代の主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの共通の枠組みとしてまとめられたもの。2015年までに達成すべき8つの目標が掲げられている。
『外務省Webサイト』より)

(※2)水道法では「水道事業は、原則として市町村が経営するものとし、市町村以外の者は、給水しようとする区域をその区域に含む市町村の同意を得た場合に限り、水道事業を経営することができるものとする」(第六条2)とされており、市町村単位での事業が前提とされている。

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