無駄ではなかった日本の失われた10年

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2008年04月23日

  • 奥原 健夫
米国のサブプライム問題は金融不況をもたらし、史上最悪の不況であると言われている。米国市場の資産担保証券や金融セクターの社債のクレジット・スプレッド(社債利回り-国債利回り)は、1998年LTCM破綻、2002年エンロン、ワールド・コム事件の水準を大きく上回って拡大し、実際のデフォルト率を上回るスプレッドの拡大となった。しかし、国内社債市場は、国内企業の良好な財務を反映して、消費者金融以外は同時期の水準を下回っている。消費者金融はサブプライム問題というより、改正貸金業法や2007年9月のクレディアなどの破綻の影響でスプレッドが拡大した。一方、国内金融機関はサブプライム関連商品を保有していた結果、損失が発生しているが、その損失額の影響は欧米の金融機関と比較しても軽微で、スプレッドは安定している。

また、今回のサブプライム・ショックの震源地である資産担保証券をみると、日本の資産担保証券は国内社債と同様にスプレッドが安定している。日本の住宅ローンの延滞率が低いだけでなく、住宅支援機構のMBS(モーゲージバック証券、Mortgage Backed Securities)は裏付けローンがデフォルトしにくいスキームを持ちあわせており、デフォルト・リスクが大幅に軽減されている。米国の影響はあるものの、日本の金融システムは強固であることが際立つ状況と言える。

株式市場をみると、国内市場は米国に大幅アンダーパフォームする状況で、日本の魅力のなさが強調されているが、社債市場からみた日本は全くの逆で、日本の堅実ぶりが目立つ。私はこれを称して「無駄ではなかった日本の失われた10年」と呼んでいる。政治リスク、日本の財務問題、円高による企業収益の悪化リスクなど「日本の株安」には相応の理由が存在するが、環境や素材などで優れた技術をもつ日本を「安く買いたいから」というのも理由の1つであると考えられる。さらに円高は輸出企業を中心とする日本にとって大きなリスクとされているが、投資という点においては絶好の機会になると期待される。今後の信用リスクは米国が大幅調整したことで、割高な商品市場、エマージング市場に転嫁されるとみられる。ドルだけでなく、他の通貨に対して円高となったときが日本からの投資タイミングになるであろう。

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