消費拡大に向け走り始めた中国

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2008年04月16日

  • 由井濱 宏一
08年3月に開催された全人代(※1)が終了したばかりだが、ここで確認された重要課題のひとつとして、中国の今後の成長パターンを輸出、投資主導から消費主導へと大きく転換していくことがある。この点はこれまでも中国政府の幹部発言で折に触れて指摘されてきたことではあるが、07年の共産党大会に続いて強調されていることは意義深い。06年のGDP統計によれば、全体のGDPに占める民間消費の割合(名目ベース)は約36%と先進国のそれが60~70%の割合を占めていることを考慮すれば、かなりの低水準である。外部環境に大きく左右されず、持続的で安定した成長を実現するためには、民間消費を中心とした内需牽引型の成長パターンへの転換が急務との認識がある。

弾みがつく個人消費

足元の統計をみると中国の消費に弾みがつきつつあることは確かなようだ。06年あたりから小売売上高の伸び率は上昇し始め、08年1~2月は平均で前年比20%を上回る伸びとなっている。インフレ率を差し引いた実質伸び率をみても同14%前後に達しており、これはアジア主要国・地域の中でも香港と並んで最高水準である。また、最近のエネルギー・原材料高という要因はあるにしてもここ5カ月連続で輸入伸び率が輸出を上回っている。中国内の堅調な賃金上昇による可処分所得の増加や人民元高、北京五輪の開催を控えて将来に対する楽観的な見方が台頭していることなどが消費者の購買意欲に拍車をかけているようだ。とりわけ大都市での消費の高級化は目立っており、上海でもルイ・ヴィトンをはじめとするいくつか高級ブティックが売り場面積の拡大に躍起となっていると伝えられている。

人口動態上優位に立つ中国

こうした消費活発化は一過性ではなく、長期にわたる構造的な変化が始まっている可能性がある。中国の人口動態上の優位性がその背景にあり、消費水準は更に高みに押し上げられるだろう。一国の経済成長に寄与する要因である生産年齢人口(※2)をみると、中国ではその全人口に占める割合が依然として上昇過程にあり、05年時点で約70%。国連の推計によると今後10年程度はこの比率は上昇を続けるとみられている。少子高齢化が進み既にこの比率が減少過程にある日本や韓国との勢いの差は歴然としている。更に注目されるのは、年齢層別にみたいわゆる消費世代の人口シェアも上昇の途上にある点だ。この中にはいわゆる一人っ子世代の先頭集団も含まれており、消費に特に貪欲な若者層が今後、消費全体の牽引役として重要な役割を果たすことになる。消費市場としての中国の存在感はますます高まることになるだろう。

(※1)全国人民代表大会の略で中国の最高権力機関。毎年3月に開催され、共産党・国家・軍・各分野の代表によって構成。08年は出稼ぎ労働者の代表も初めて参加した。

(※2)一国の主たる働き手である15歳~64歳までの人口を指す。日本ではこの比率が90年代に入ってから徐々に低下、05年で65.5%。

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