同族企業における「第二の創業」と経営計画の策定

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2008年04月15日

  • 鈴木 紀博

新年度を迎えて、企業の経営トップ交代の記事を多く目にするようになった。中にはいわゆる同族企業のオーナー経営者が経営トップの座をその子弟に譲り渡すケースも見られる。同族企業にとって「歴史的な出来事」である経営トップの交代に際し、新たな経営計画策定を検討している企業も多いことと思う。大和総研においても、同族企業の経営計画策定に関する相談を受けるケースが増えている。

同族経営に関してはそのメリットとデメリットが様々に語られるが、最大のメリットは「中長期的視点による経営」ができる点であろう。非同族企業の経営が中長期的視点に欠けるとは言えないが、少なくとも、経営トップの在任期間が長い同族企業では、非同族企業に比べて「中長期的視点による経営」を行いやすい環境にあると言えるだろう。

経営トップ交代の時期は、中長期的視点に基づく経営計画を策定する良い機会である。経営計画の策定には一定の手間と時間を要するが、経営トップの在任期間が長い同族企業では、手間と時間をかけてでも中長期的視点に基づく経営計画を策定する価値がある。

経営計画策定の意義は企業によって様々であるが、一般的には以下に挙げる3点に整理することができる。
(1)経営指針の明示と共有
中長期的な経営ビジョンを示し、それを達成するための戦略・実行計画を定めることにより、経営者、部門、社員が経営の目標と道筋を共有できる。
(2)経営体質の強化
経営計画の策定及び運用の仕組みを構築するプロセス自体が、社員の意識の高揚や社内資源の顕在化を促し、経営体質を強化することになる。
(3)コミュニケーションの向上
経営計画は、顧客、取引先、投資家など企業を取り巻くステークホルダーに対する情報発信の基礎となる。特に上場企業において、経営計画は投資家やアナリストとのコミュニケーション・ツールとして重要である。

重要なことは、外部環境や社内の実情に沿って、上記3点のいずれに重点を置くのかを明確に意識することである。同族企業の場合、経営トップ交代の時期は腰を据えて新たな経営ビジョンを打ち立てる良い機会でもある。「第二の創業」にふさわしい斬新な経営計画の策定を期待したい。

後継者と目される子弟が比較的若い場合には、現経営者の在任期間中に経営計画策定のプロジェクトチームを立ち上げて、「第二の創業」のための道筋をつけておくという方法もある。この場合、将来の後継者がプロジェクトリーダーになるなどプロジェクトの中で主体的な役割を果たすことによって、経営に必要な知識や経営感覚を身につけることができる。経営計画の策定には後継者の育成という機能も期待することができる。

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