日本の物価水準

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2008年04月04日

  • 佐藤 清一郎
日本の物価水準は、バブル経済崩壊後の長期経済低迷を経て、だいぶ下がった。以前に比べて、外国からの旅行者が増加していることや、海外からの不動産投資が増えているのは、こうしたことの反映であろう。

高水準だった物価が是正されるきっかけは1990年代前半である。この時期、景気失速の影響で需要が急減し高い物が売れなくなった。人々は1円でも安い物を求めて奔走し、商品生産者や販売業者は価格引下げを余儀なくされた。「価格破壊」という言葉が新聞や週刊誌を賑わせたのはこの時期である。バブル経済までの日本は、国内市場が閉鎖的で価格水準は概ね高く、お互いに高い物を買いながら経済は成り立っていたといってよい。そのため「価格破壊」は、人々の目に新鮮に写り、当初はその状況を楽しんだ人も多かった。しかしその後、いつも商品は安く買える状況に気づき、あるいは、現在消費よりも将来消費の方が満足度が高いということが分かると、安売りの新鮮味が薄れ、消費活動は低迷、1998年以降は消費者物価が前年比マイナスとなるデフレ経済へと陥ってしまった。

この間、長引く経済低迷の中で、物価が上がりにくい構造が出来上がり、企業は、物の値段を簡単には上げられないと考え、消費者は物の値段は上がらないと考えるようになった。結果、日本の物価水準はかなり低下し、最近では、1990年前後に騒がれた内外価格差の問題も議論されなくなった。こうした環境は、外国人から見れば好都合で、以前、海外からの出張者が、日本は、すべての物が安く、まるで100円ショップのようだと言っていたことを思い出す。

しかし最近は、徐々に物価は上昇し始めている。上昇率は急激ではないので、それ程実感はないが、雰囲気が変わってきたのは確かである。今後、現在消費のほうが将来消費よりも効用が高いという、ある意味自然な状況に戻れば、消費者は、これまでの消費態度を変更せざるを得ない。また、最終価格への転嫁が容易になれば、企業の価格戦略は変わる。これら一連の動きは、価格形成に影響を与え、価格体系を作り直すきっかけになるかもしれない。破壊された日本の価格体系は、外国人から見れば、100円ショップのような存在となっている。グローバル化した世の中で、こうした状況が長期間放置され続けるのはおかしい。今後、物価上昇や為替の調整などを経ながら、新たな価格形成が行われ、先進諸国と比較してもそれ程おかしくない物価水準に到達することを期待したい。

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