忘れられない"師"の言葉
2008年04月02日
2月、3月と金融取引に関わるシステム障害が報道された。昨今の情報システムは複雑化・肥大化に拍車がかかり、社会的影響も大きくなった。システム障害を聞くたび思い出すのは、“師”の言葉である。情報システムの規模も役割も巨大化した今ほど、“師”の言葉が響く時もない。 ■「君が後悔しない範囲だ」 システムに何らかの変更を加えた場合、変更した箇所の動作に問題がないかをテストすることは当然である。一方、情報システムは複雑に連携しあっている。その結果、変更を施したシステムに関連する周辺システムをどの範囲までテストするかは人員や時間とのトレードオフであり、難しい判断を迫られる。 その昔、あるシステムの改定を行った。周辺システムは多数あり、中には同様の改定が必要なものもあれば、修正不要と思われるものもあった。どの周辺システムまでテストすべきか。すべてをテストすれば工数は数十倍に膨れ上がり、予算と要員確保の面で不可能と思われた。 しかし、“師”の見解は「すべてテストせよ」。勇気を振り絞って「予算と要員の面でそれは厳しい」と訴えると「システム障害は、必ずテストしていないところから生じる。障害が出た後、あそこもテストしておけば良かったなどと後悔することだけは絶対にするな。テストの妥当な範囲とは、君が後悔しない範囲だ」 ■「君はそれで満足か」 とある分散系システムを構築したとき。ある情報の更新を様々な制約からオンライン方式ではなくバッチ方式とした。ところが、これに起因する不測の事態が発生した。なぜオンライン方式としなかったか、そのすべてに答えるべく資料を整え、“師”のもとへ向かった。「実は…」資料を出して説明しようとする私を遮って、“師”は言った。 「君はそれで満足か」 用意した資料は、すべて無駄になった。 1つ目の件では、思いつくところはすべてテストするよう指示した。その結果、極めて関連の薄いと思われる周辺システムに、修正を施さなければ障害を起こしかねないことを見出した。 2つ目の件では、オンライン方式への変更を実行した。
昨今、モノ作り能力の低下を危惧する記事をよく目にする。映像を駆使した知の継承の取り組みもある。しかし、人の支えとなり、人を突き動かし、革新の原動力になるのは、身が引き締まるような、震えるような、魂のこもった言葉である。知の継承は、心の継承、人づくりでなければならない。 新社会人と思しき面々の緊張気味の表情を見るに付け、そんなことを思う。 |
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日