移民政策

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2008年03月31日

  • 山中 真樹
ここもと我が国においてアメリカ大統領選挙への関心が高まっている。大統領自体を選ぶ選挙ならいざ知らず、各政党の大統領候補者を選ぶ予備選レベルでのこの注目振り、過熱とも言える報道振りは過去に例がないと言っても過言ではなかろう。とりわけ民主党サイドは(本稿執筆時点で)対立する二人の候補が熾烈な選挙戦を繰り広げており、このことが関心を一段と煽る結果となっている。

ところで今回のアメリカの大統領選挙は政策面においても重要な争点が目白押しである。国際問題としてはイラク問題、「テロとの戦い」への対応が重要であるし、国内問題としては最近のサブプライム問題を受けて景気対策に関心が高まっているが、移民政策も重要な争点となっている。一口に移民政策といっても、合法的な移民の範囲から、不法滞在者への対応、国境管理のあり方、社会的・経済的側面における移民の役割や位置付け等々、様々な課題があり、各候補がそれぞれの立場から独自の主張をしている。

移民政策が国政上の大きな問題となっているのは何もアメリカに限られたことではなく、ヨーロッパなどでも同様である。昨年行われたフランスの大統領選挙においても移民政策が争点のひとつであった。また、つい先日も国内に相当程度のイスラム系移民を抱えるイギリスにおいて、イスラム法をイギリスの司法制度に部分適用することに関し国民的な大議論が起きているとの報道がなされている。

我が国においては移民政策が国政レベルでの争点となっているとまでは見受けられないが、その前段階ともいうべき外国人労働者受入れの問題については国民の関心が急速に高まっている。これはグローバル化の進展により人的な交流が拡大していることにもよるのであるが、我が国固有の問題としては、今後少子高齢化が進む中で経済の活性化、活力維持のため外国人労働者を積極的に受入れるべきではないかとの主張がなされている。

一方で、低賃金労働者流入に伴う各種のフリクションや治安面への影響などから反対する意見も根強い。また、「技術等の移転を通じた国際貢献」を目的とした外国人研修・技能実習制度が本来の趣旨通りの運営が必ずしもなされておらず種々のトラブルが報道されており、「不正行為」も散見されることなどからみて、外国人労働者を積極的に受入れることができるほどに我が国社会が成熟しているとは言えないとの見方もあるようである。

結局のところ、我が国の現状は、高度な専門性を有する外国人労働者の受入れについてはあまり異論がないようであるが、それ以外の分野においては国民的なコンセンサスが得られていないのが実情であろう。外国人労働者の受入れ問題は最終的には移民政策に行き着く問題であり、結果としてこの国のあり様にも係る問題である。国民的な議論の深まりを期待したい。

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