内部統制報告制度の施行に向けて

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2008年03月27日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 吉田 信之
いよいよ平成20年4月以降に開始される事業年度から、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度(日本版SOX法)がスタートする。当初の予定より若干対応が遅れている企業が散見されることもあって、金融庁は3月11日に「内部統制報告制度に関する11の誤解」を公表した。これは、基本的にこれまでに出された基準等の踏襲であって、特に新しい内容はないものの、一部の企業で過度に保守的な対応が行われているとの指摘があることを踏まえ、金融庁が改めて「制度の意図」を説明したものである。

では、制度の意図とはいったい何か。日本版SOX法は、過度なコスト負担が発生した米国SOX法の反省を踏まえた制度設計がなされているため、「投資家の視点」だけでなく、「企業の視点」も盛り込まれている。すなわち、金融庁のいう制度の意図とは、「投資家保護を図りつつも、企業に過度のコスト負担を強いることなく、効率性と有効性のバランスを取りながら内部統制を整備すること」なのである。

しかしながら、これは言うは易し、行うは難し、である。あくまで内部統制報告制度の第一義的な目的は、「財務報告の信頼性確保」である。このため、日本版SOX法では企業外部の第三者である、公認会計士または監査法人による監査証明を義務付けている。この監査人による監査証明は、財務報告の信頼性の保証水準を高める一方で、企業に過度な負担を課してしまう危険性を孕んでいるのである。

すなわち、企業外部の第三者(監査人)が内部統制の適正性を保証するためには、企業にとっては当たり前と思われることも文書化によって「見える化」を行う必要があるし、さらにはコントロール(牽制)が適切に機能していることを「証明」する必要がある。また、監査人の立場からすれば、監査証明を出す以上厳格に監査を実施し、時には企業に過度な負担を強いたとしても、投資家保護を優先させることもある。つまり、監査人の意図するままに日本版SOX法の対応を進めていると、より詳細な文書化作業や評価作業が行われてしまうことがあるのは、ある意味必然の流れなのである。

このように、「投資家の視点」と「企業の視点」は潜在的にトレードオフの関係になりやすい。企業側がなるべくコスト負担が発生しないように日本版SOX法への対応を行うためには、制度をしっかりと理解し、投資家保護を図りつつも、監査人との協議を行うなかで、企業側の視点を積極的に主張していかなければならないのである。

日本の上場企業は、このことを常に念頭に置きながら、是非とも投資家のためだけでなく、企業にとっても有効な内部統制の整備・構築作業を進めていただきたいものである。

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吉田 信之
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