2008年度の株式市場で買い手に浮上する公的年金(GPIF)

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2008年03月19日

  • 壁谷 洋和
厚生年金・国民年金の積立金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人(以下GPIF)」が発表した2007年度第3四半期の運用状況が、市場関係者の間で話題となった。ここ数年、好調を続けてきたGPIFの運用成績が、2007年度は5年ぶりにマイナスに転じる見通しであると伝えられたためだ。言うまでもなく、運用成績の悪化はひとえに国内外の株式相場の下落によるところが大きい。そのことはまた、運用成績に多大な影響を与えるほど、運用資産に占める株式のエクスポージャーが大きいことを意味する。

GPIFの保有する国内株式の残高は、2006年度末の実績でおよそ19兆円。市場全体の3%強を占める大口投資家だ。ここまで存在感を高めたのは、2001年度以降のことだが、背景にあるのは預託義務廃止に伴う市場運用額の増加である。かつては積立金の一部だけが市場運用に回り、そのうちの一定割合だけが国内株式に投じられたが、預託義務廃止によってその全額が(段階的に)市場で運用されることになった。その結果、国内株式の運用額が飛躍的に増加したのである。この間、市場へのインパクトをなるべく低減させるために、国内株式の比率は計画的に少しずつ引き上げられてきた。毎年、新年度に入る前に策定されてきた「移行ポートフォリオ」が、年間の組入れ目標を表している。全額市場運用への移行、最終形(基本ポートフォリオ)実現をスムーズに行うため、適切な資金配分を行い、定められた目標を着実にクリアしてきたのが、GPIFの運用の一つの特徴でもある。

ただ、今回の株価下落は、最終形実現に若干の狂いを生じさせている。GPIFの発表によれば、2007年12月末時点で、国内株式の組入れ比率は2007年度の目標をわずかながら下回っている。四半期ベースで実際の組入れが目標を下回るのは2002年度第4四半期以来、およそ5年ぶりのことである。年明け以降の相場の調整を考慮すれば、足元の下方乖離はさらに拡大していると見られる。基本ポートフォリオ上で11%とされる国内株式比率は、既に2005年度末時点で達成していたが、直近の株安を反映させて推計すると、足元では再び9%程度まで落ち込んでいる可能性が高い。

2008年度は公的年金の全額市場運用移行に向けての最終年度となり、運用のターゲットは基本ポートフォリオとなる。移行ポートフォリオのもとでは、国内株式の組入れに対し、許容された下方乖離は限られたものとなっていた。それは、着実に国内株式比率を引き上げるための措置であったと推測される。しかし、基本ポートフォリオのもとでの下方乖離は6%ポイントまで許容される。すなわち、組入れ比率の下限は5%である。そのように考えると、現状の比率9%も許容範囲内で、さほど大きな問題はない(無理やり比率を上げる必要はない)と言えるかも知れない。

とはいえ、2008年度末の基本ポートフォリオの実現は積年の課題でもあった。事情はどうであれ、節目となる年に実際の資産構成が基本ポートフォリオからかけ離れているのは、あまり好ましくないと判断される可能性はある。だとすれば、2008年度において、国内株式の下方乖離を修正する動きが出てくることも十分に考えられる。2%ポイントの比率引き上げは、単純計算でおよそ3兆円の資金流入となる。2008年度のGPIFは、2002年度の金額を越える国内株式の買い手となる公算もある。確たる買い手を欠く市場環境では、心強い存在となろう。

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