医薬品研究のオフショア・アウトソーシング先として中国

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2008年03月12日

  • 浅野 信久
バイオテクノロジーの進歩により、医薬品に用いられる技術は、日々、高度化かつ複雑化している。そして、医薬品の安全性と有効性の審査にはより厳格な精査が行われ、それに耐えうる緻密なデータの提出が求められるようになっている。この結果、研究開発費は増える一方であるが、新薬の上市数は減少傾向にある。さらに、これに高騰する医療費に対する対応策が追い討ちを掛けている。R&D、生産、流通・販売、あらゆる面での事業の効率化は、世界の医薬品産業に共通する火急の課題となってきている。

この結果、当然のこと、医薬品の基礎研究の領域にまで、効率化のメスが及んできている。この余波を受けてか、日本でもファイザー社やノバルティス社の中央研究所の閉鎖が決まった。クロスボーダーな医薬品ビジネスの激流を実感させられる出来事である。

この一方で、業界関係者の間で関心が高まりはじめているのが、中国やインドへの医薬品研究におけるオフショア・アウトソーシングである。欧米の製薬企業は、これまでこれらの国々を、医薬品の製造委託あるいは販売先として考えていたはずであるが、現地事情を知るに従い、優秀な研究者が比較的安価な人件費で雇用できる点にも次第に魅力を感じはじめたのであろう。だが、安価な人件費にばかり目を囚われているのみではなかろう。やはり、教育や研究も含めたライフサイエンス産業インフラ整備の急進ぶりがその背景にあるのだろう。

例えば、中国について見てみよう。欧米での研究生活を経験した研究者や留学生が続々と中国へ帰国し、公的研究所、製薬企業、あるいはバイオベンチャーの要職につき、精力的に研究活動をはじめている。国内でも大学などでライフサイエンス分野の技術者や研究者の養成にも余念がない。加えて、国や地方政府はファンドなど組成し、研究のみならず事業化をも支援している。

中国科学技術院は、すでに、北京、上海、広州、深せんをはじめとする都市に、IT、テレコムなどの技術分野を対象とする9つの国レベルの国際的インキュベーターを設置している。地方レベルでは、上海、北京や深せんなどにはバイオリサーチパークが存在する。そして、現在、中国・北京の国家バイオテクノロジー開発センター(CNCBD)は、科学技術院と連携して、アジア最大のバイオテック・インキュベーターの建設を進めている。2009年開設を目指して、約1.5億ドル投じる計画である(ネイチャー・バイオテクノロジー誌2008年2月号記事)。

日本での医薬品の研究開発の空洞化が危惧されているとは言え、医薬品ビジネスのクロスボーダー化の流れを止めることはできない。日本の製薬企業も、医薬品研究事業では中国などへのオフショア・アウトソーシングモデルをも積極的に活用し、むしろ日本では安心・安全な医薬品の臨床開発や生産に重きを置くといった従来型とは若干異なる経営モデルの採用を検討してみてはいかがだろうか。

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