米国で「黒人」大統領候補が可能となった背景

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2008年03月06日

  • 大和総研 顧問 岡野 進
オバマ、クリントンどちらが民主党の候補になっても、米国政治史上、非常に大きな変化が起きたことになる。これまで、大統領そのものはもちろん、民主、共和の2大政党で黒人や女性が大統領候補として党の指名をうけたこともなかった。米国民の社会意識の変化が実際の政治のうえでも顕在化してきたといえるだろう。

ピュー調査センターの世論調査で興味深い数字がある。「黒人と白人がデートするのは問題ない」という問いに対し、1987年に賛成と答えた人は48%、反対と答えた人が46%と賛否が拮抗していたが、2007年調査では賛成が83%に上昇し、反対が13%に下落した。特に30歳以下の世代では97%が賛成と答えている。80年代でも人種差別に賛否を問えば100%近い人が差別反対と答えたであろう。しかし、異人種間の結婚やデートには違和感を持つ人のほうが多数であった。そうした身近な生活上における差別意識がとくに若い世代には大きく薄れてきている。

ニューヨークに赴任していた当時ジャズヴァイオリンを習っていた若い黒人の先生は白人女性と交際していたが、そんなのはまだやはりかなりの少数派だったらしい。息子の通う高校で人種問題を話し合う会合があったときに、親のひとりが「そんな綺麗ごとを言っても、この高校で異人種間の交際をしているのをみたことがない」と発言していた。黒人と白人の結婚や男女交際は増加しているものの、実際にまだまだ少数である。ただ、壁をなくそうとする意識がとりわけ若い白人の側に強くなってきているように思われる。

もっともオバマ候補は父親がケニア人であるものの母親は白人なので正確には純粋の黒人ではなくハーフだ。米国では白人に白人以外の血が混じっている場合、白人以外の人種、民族に分類するのが日常的だ。(実はこういうところに隠れた人種差別意識が残っているのかもしれないが。)オバマ候補は幼児期に母親が再婚したインドネシア人とインドネシアで過ごし、少年期以降は母親の両親のもと、つまり白人家庭で育てられている。オバマ候補が「黒人らしく」なったのは弁護士兼活動家としてシカゴの黒人コミュニティーで活動しだしてからのことだろう。選挙運動が始まった当初、こうしたオバマ候補の生い立ちは、奴隷を先祖に持つ多くの生粋の黒人からは自分達とは異質と受け止められたらしい。

実際に予備選や党員集会が始まると黒人の間でのオバマ支持は大きく上昇した。しかし、オバマ候補の選挙運動は黒人の代表というよりも「人種間の融合」を目指す気分に支えられているようだ。

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