来年度、地方の財政健全化法で問われること

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2008年02月26日

  • 星野 菜穂子
近年、地方債資金の市場公募化の進展にともない、市場参加者の地方財政への関心も高まっている。昨年、成立した地方の財政健全化法(※1)もその一つである。同法に関しては、これまでの市場関係者の発言等から、従来の再建法とは異なり、イエローカードに相当する早期健全化措置が盛り込まれたことで、地方債の信用力自体にはプラスに働くといった評価が見受けられる。来年度は、同法の健全化判断比率等が、秋にも公表される予定となっており、この点も関心を呼ぶものとなろう。特に、連結実質赤字比率、将来負担比率、また公営企業会計ごとの資金不足比率といった新たな財政指標が全団体で公表されるため、どの程度の団体が早期健全化段階、財政再生段階にあるのかはもとより、同指標による個別団体間の差にも注目の集まることは必至と思われる。既にマスコミでも、既存の実質公債費比率に関してはランキング付けが記事を賑わしている。

しかし、新しい指標に関しては、単純な団体間の序列づけに走ることなく、その指標が意味するところを冷静に汲み取ることも重要だ。新しい財政指標はそれぞれ一定の考え方のもとに策定されたものとはいえ、その指標化おける問題も指摘されている。連結実質赤字比率は、会計原則の異なるもの、質の異なるものが合算されており、赤字の意味するところが不明確。また同指標にも算入されることになっている公営企業の資金不足比率には、さまざまな控除が盛り込まれることになっており、この事業間のバランスも含む妥当性、および団体間の比較可能性の問題。将来負担比率も、具体的な算定方式はまだ確定されていないと伝えられているが、実態としての将来負担を示すものか否か等々。

新たな財政指標が公表されることで、各団体の財政状況が住民の関心を呼び、監視を強めることになれば、それは財政健全化法の目的に適ったものともいえよう。しかし、財政状況を正しく理解する上では、指標の数値の高低のみに眼を奪われるのではなく、背後にある地域の実情や財政状況を知ることが重要であろう。この点で、地方公共団体が新たな財政指標の意味、当該団体の数値の背後にある財政状況を、分かり易く説明することが重要になってくる。住民向けは勿論のこと、市場関係者に向けてもきちんとした説明がなされれば、誤解にもとづく判断を避けることにつながろう。来年度は、地方公共団体にとっては自らの財政状況について一層の説明責任が問われることになるといってよいかもしれない。

(※1)正式には、地方公共団体の財政の健全化に関する法律。

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