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メタボ健診導入の本当の目的とは

2008年02月25日

齋藤 哲史

2008年4月より、メタボリックシンドローム(以下メタボ)に着目した特定健診と特定保健指導がスタートする。いわゆるメタボ健診だ。これにより、2015年度までにメタボの該当者および予備軍を08年度比で25%減少させ、医療費を2兆円削減するとのことである。しかし、目標達成は困難との指摘は多く、政府も本腰を入れているようには思えない。内容がお粗末すぎるからだ。

“メタボ”という語が人口に膾炙されて久しいが、「男女の腹囲の基準値が世界標準から逸脱」(※1)、「基になったデータのサンプル数が少なすぎる」、「メタボを基準とすることによって疾患の発症を減らすというエビデンスがない」、「メタボは定義が曖昧で、疾患概念、診断基準として未確立」等の疑問が提起されており、国会(※2)でも相当突っ込んだやり取りが行われた。

また予防の効果についても、その有効性は実証されているが、運動や食事療法等を継続的に行うことは困難だし(だから先進国は肥満対策で頭を悩ましているのだ)、健診により患者が顕在化して受診や投薬が増えることにでもなれば、医療費はむしろ増加することになろう。

このように数々の疑問点が指摘されているにもかかわらず、政府当局がほとんど中身を修正せず、政策を推し進めているのはなぜなのだろうか。筆者は、メタボ対策はあくまで口実であって、本当の目的は、増え続ける高齢者の医療費を如何に不満が出ない形で現役世代に負担させるか、であると推測している。

現在、高齢者医療費は公費(5割)と老健拠出金(5割:現役世代の負担)を主な財源としているが、本年4月から開始される75歳以上の後期高齢者を対象とした「新たな高齢者医療制度」では、現役世代は“後期高齢者医療支援金”という名目で、高齢者医療費の4割を負担することになる。さらに今回の対策の目玉として、政府当局は健診の受診率やメタボの改善度という目標の達成状況により、±10%の範囲内で各保険者の支援金を調整(加算・減算)する、というインセンティブを保険者に与えている。自助努力を行えば、支援金を減らせるというわけだ。これは一見すると、現役世代の負担が減っていくように感じられるが、実はそうではない。高齢者の負担は増えるが、現役世代も負担が増えることに変わりはないのだ。新制度といっても、実際には看板を付け替えたに過ぎないのである。

そもそも、メタボ対策が『高齢者の医療を確保する法律』を根拠としていること自体、妙な話であろう。現役世代のメタボ度と、現在の高齢者の医療費に関連はないからだ。それにもかかわらず、目標未達の保険者がなぜ高齢者の医療費をより多く支払わねばならないのか、全くもって理解に苦しむところである。(メタボの該当者が増大⇒心疾患や悪性腫瘍に転帰⇒将来の医療費増⇒その費用を賄うため保険料引き上げ、というロジックであれば理解できなくもないが、これにしても現在の高齢者の医療費を現役世代が賄う理由にはならないだろう)。

結局のところ、メタボ対策とは、高齢者医療費を穴埋めするための手立てにすぎず、将来の医療費抑制や国民の健康など二の次である、と言ったら言い過ぎだろうか。

(※1)男性85㎝以上、女性90㎝以上がメタボの必要条件であるが、欧米やアジアで、女性の基準値が男性の値を上回っている国はない。IDF(国際糖尿病連盟)も日本の基準値に疑問を呈している。
(※2)平成18年5月10日および12日の衆議院厚生労働委員会より


<参考>
コンサルティングレポート『「正しい」医療制度改革とは(前編)』

コンサルティングレポート『公的医療費抑制の本当の理由は世代間の不公平』

リサーチレポート『メタボリックシンドロームと予防対策の成否』

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