世界的なM&A拡大の背景
2008年02月07日
世界のM&Aが拡大している。2007年の世界におけるM&Aは金額ベースで4兆5,000億ドル(約480兆円)近くにまで達し、件数ベースでは42,437件(Thomson Financial社調べ)と急成長している。実際、過去にもM&Aがブームとなった時期はあり、80年代後半やITバブルに沸いた90年代後半にも世界のM&Aは規模・件数共に拡大したが、2003年頃より始まった今回のブームは過去のいずれをも上回る規模・件数に達している。こうした足元における世界のM&Aブームには、以下のような特徴がある。 まず、世界規模で見たM&Aのうち米国と欧州をターゲットとしたものが全体の約8割を占めていることである。その内訳を見ると、近年は米国を対象とするM&Aのウェイトが低下し、欧州をターゲットとするM&Aが増加している。また、規模はまだ小さいものの、アジアや中東・資源国絡みのM&Aも着実に増えている。 次に、クロスボーダー型のM&Aが世界全体のM&Aのおよそ半分を占めるに至っていることである。クロスボーダー型のM&Aは90年代には全体の4分の1、2000年代には3分の1と着実に増加し、昨年には2分の1にまで達した。特に欧州では、域内及び域外のクロスボーダー取引が拡大しており、これが世界全体のM&Aを押し上げる形となっている。 一方、業種別のM&Aで見た場合、従来通り金融のウェイトが大きいものの、足元では素材やエネルギー・電力関連を対象としたM&Aが増えているのが特徴である。また、食品や農業を含む消費関連財が関係するM&Aも比較的ウェイトが大きくなっている。 こうした背景には、先進主要国における市場の飽和が国内での事業再編を促したり、または海外に市場を求めたりすることでM&Aを行う誘引が高まっているという経済的要因がある。さらにこれを後押しするかのように、欧州の通貨統合の影響や世界全体における外資規制も含めた規制の緩和、会計基準の収斂といった制度的要因の変化が、海外とのM&Aを行う様々な障壁を低くしており、M&Aの規模・件数やクロスボーダー型M&A拡大に寄与しているものと考えられる。特に日本では、99年に導入された株式交換や株式移転などの法制度の変化の影響が大きい。さらに最近では、資源価格の高騰を背景とするM&Aが活発になっていることも注目に値する。 直近では米国のサブプライムローン問題による信用収縮が影響して、大規模なM&Aは控えられつつあるものの、先日のマイクロソフトによるヤフーの買収提案や中国アルミによる英豪資源大手リオ・ティントへの資本参加があったように、こうした潜在的な経済的・制度的要因に支えられながら、M&Aに向けた動きは今後も世界的に拡大することが見込まれる。
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