資源(非鉄金属(※1))獲得競争の意味

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2008年01月24日

  • 瀬越 雄二

我が国の非鉄金属大手は資源メジャーに買収されるか。これは、近年の非鉄金属業界における関心事の一つである。実際、BHPビリトン(豪)、アングロ・アメリカン(英)、リオティント(英)等の海外資源メジャーは、ここ数年、企業買収を繰り返しその規模は急速に拡大している。その背景には、非鉄金属市場における需給の逼迫および金属価格の高騰がある。昨年7月にはリオティントによるアルキャン(加)の買収が注目を集めた。その買収金額は381億米ドル(約4兆円)に上り、我が国の精錬大手5社の時価総額に匹敵する。企業買収を通じた業界再編または資源獲得競争の発生原因として、資源戦略研究会(資源エネルギー庁長官の私的研究会)は、次の三つを指摘する。第一は、中国の資源輸入国化、第二は、資源メジャーの巨大化、第三は、資源ナショナリズムの台頭、である。

高度成長以降、我が国では経済の成長または産業の振興を議論するとき、焦点は製造業または事業主体の組織論または技術的側面並びに事業資金等が強調され、資源問題自体には余り注意が払われなかった。我が国の非鉄金属資源のほとんどが海外から輸入されているのが現状であることを勘案すると、非鉄金属資源の確保または安定供給の問題は、単に、一つの業界または一つの企業の問題ではなく、我が国の製造業全体に重大な影響を及ぼす可能性を秘めた問題である。その象徴的な金属資源がレアメタルである。レアメタルは、自動車の排出ガス浄化、ハイブリッド車の燃料消費制御、太陽電池、エアコンの省エネ用素材、等のハイテク製品の原材料として利用されている。また、レアメタルは中国等の極めて限られたれ国から輸入されている。中国が当該資源を国内市場に回し輸出を控える状況になれば、我が国の製造業は代替材料を早急に開発しない限り、致命的な打撃を受けることになる。

非鉄金属資源を確保する正攻法は、海外における探鉱開発であろう。探鉱開発を行うには、優良な資源開発権益の確保が最重となる。探鉱開発のライフサイクルは、通常、(1)初期探鉱、(2)後期探鉱、(3)プレFS、(4)FSというステージを経て、実際の開発・生産ステージに入る。我が国の場合、探鉱開発に係る主たるプレーヤーは鉱山会社(精錬会社)または大手商社であるが、大手商社による海外資源メジャー等が実施する大型プロジェクトへの出資を除いて、ほとんど主体的な海外探鉱開発行っていない。非鉄大手は「資源・精錬部門」を中核部門と位置づけながら、金属加工、電子資材、自動車部品、セメント、アルミ、環境リサイクルなどの中流領域へシフトする傾向にある。今後は、資源産業としての本業に回帰し、海外ジュニア資源会社(以下、「ジュニア企業」)との緊密な関係を前提にしたグラスルーツ開発案件の推進が期待されている。

海外における資源産業では、探鉱事業の分野で重要な役割を担っているのがジュニア企業(※2)である。ジュニア企業の事業資金は、通常、株式発行、大企業または投資ファンド等からの出資により調達される。従って、ジュニア企業に出資する投資家は、毎期の配当(インカムゲイン)が期待できない代わりに、新鉱床の発見基づく株価上昇によるキャピタルゲインを期待することになる。現在、ジュニア企業の証券取引所への上場が期待できる主たる市場は、カナダ、英国、豪州の3カ国の証券取引所(新興企業向け市場)に限定されている。最も重要な役割を担っているのはカナダであり、豪州は証券市場の規模が小さいため、豪州のジュニア企業はカナダまたは英国に向かう傾向にある。今後、我が国において海外探鉱開発が重要と認識されつつある今日、我が国の非鉄金属大手または大手商社がグラスルーツ開発案件に着手し易くなるような試みを行うのはどうであろうか。具体的には、我が国の証券取引所にジュニア企業が上場し資金調達ができるように市場整備する等がそれである。資源開発プロジェクトは、これまでの伝統的な証券市場に存在しなかったハイリスク・ハイリターンの投資対象を提供するかもしれない。

(※1)「非鉄金属」とは、鉄以外の金属の総称。非鉄金属は、便宜上、ベースメタル(アルミニウム、銅、亜鉛等)とレアメタル(ニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウム)に分類される。レアメタルは資源の偏在性が強く、市場取引ではないため価格変動が激しく、概ねベースメタルの10倍の水準である。

(※2)「ジュニア企業」とは、基本的に探鉱を主たる事業とする小規模企業であり、生産活動または役務の提供などによる継続的な事業収入がない事業主体を指す。

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