大学入試の国際比較

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2008年01月23日

大学入試制度は、その善し悪しは別として、その国の教育実態に大きな影響を与えているのは事実であろう。その割には海外の入試制度は意外と知られていない。以下で、簡単に事例を紹介した上で、比較検討してみたい。

アメリカの大学入学には、かなり多面的な要素が考慮される。大きく分けて(1)高校での成績(日本でいう内申書の平均点と、学内順位)、(2)全国統一学力適性テスト(入学の1年前~3ヶ月前まで、年7回程度実施している。複数回受験しても良いが、その場合はそれまで受けた回の成績も大学に送付される)、(3)推薦状、小論文、面接など、の3分野から総合的に判断される。(2)は主に国語(つまり英語)と算数(日本の中学校レベル)で、大学で学ぶのに必要な程度の学力が身についているかを判断するための適性テストなので、日本の大学入試問題ほど難しくはない。そのため有名大学に進学するためには、(1)や(3)も重要な要素となり、高校での学習態度や課外活動などにも力を入れる生徒が多くなる。

そのような背景もあって、アメリカでは予備校や塾などの受験産業はあまり発達せず、大学入学前のいわゆる受験戦争は相対的にあまり激化していない。(浪人をしても意味がないので、浪人生もほぼ存在しない。)むしろ、大学入学後のプレッシャーの方が大きく、1コマの授業ごとに数十ページの事前予習を週10コマ前後要求されるので、一週間に数百ページの読書が必要となる。また、大学院ではそのプレッシャーが一層きつくなる。

一方、アジアの国々はどうであろうか。中国の大学入試は、毎年6月に行われる「高考」(大学入試の全国統一試験)の一発勝負である。韓国も同様に「大学修学能力試験」のウエイトが非常に高く、試験当日は国をあげて受験生の輸送サポートをしたり、騒音対策のために飛行機の運航の規制をしたりするほどの気の使いようである。日本でも、推薦入試やAO入試は別として、難関大学の一般入試は、センター試験や2次試験のみの選抜となる。

結果として、これらの国ではアメリカとは反対に、予備校や塾などの受験産業が大きく発展し、受験戦争は加熱化し、大学入学前にプレッシャーのピークがやってくる。入学後はケース・バイ・ケースだが、日本の場合、大学での成績が就職には直結しないこともあって、特に文科系学部などでは勉強面では一息いれることが可能となる。

大学入試制度において、「総合力」を評価する観点で多様な要素を加味するか、「公平性」を重視して1回限りのペーパーテストに力点を置くかは、過去の歴史・伝統や国民性などにもよるのであろう。しかし、実際問題として、大学入試制度は、教育の現実を大きく左右する。結果として、教育を授かる側の生徒は、予備校や塾なども含めて、どの年代に、どのような教育を、どのような目的で、どの程度のプレッシャーで受けることになるかが、大学入試制度によって変わってくる。

教育の問題は、国家の最重要テーマである。「学習指導要領」などの教育内容の吟味はもちろん必須であるが、大学入試にかかわる制度についても、根本的に再検討してみる必要があるのではないだろうか。

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