金融市場回復への一視点

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2008年01月10日

  • 佐藤 清一郎
残念ながら、過去数年の世界的な信用拡大には、そのスタートラインから、多大なリスクが内包されていた。その後のマクロ環境の変化と共に、それが顕在化してきているのが実情である。現在、金融市場は、サブプライムローン問題の影響で、世界的に、やや不安定な状況に置かれている。市場参加者は、先行きに対する不透明感や景気減速懸念の影響で、リスクテイクには、慎重にならざるを得ない状況にあるが、このような時だからこそ、新たな手立てを考える必要性も高い。

ここで、再度、先進国と新興国の対照的な構図に注目してはどうだろうか。IMFのデータによれば、2006年末、世界全体の経済規模は、約48兆ドルである。その内、中国、ロシア、インド、ブラジルなど、いわゆる新興国といわれる地域の経済規模は、約14兆ドルとなっている。新興国と言われる地域の経済規模は、とうとう、世界全体の3割程度まで、拡大してきた。成長の勢いなどを含め、これら地域の存在感は、無視できないものとなっている。

しかし一方で、経済規模の割合と比較すると、新興国の金融規模は、まだまだといった感じである。同データによれば、2006年、世界の金融市場規模(株式時価総額、債権発行額、銀行融資残高の3つの合計)は、190兆ドルであるが、その内、新興地域の規模は、29兆ドルにすぎず、世界全体の15%程度にとどまっている。経済成長が著しいとはいえ、新興国の金融市場は、まだまだ未発達であることを実感する数値である。ちなみに、金融規模が経済の何倍程度かを見ると、世界全体では約4倍、先進国では約4~6倍である。主なところでは、米国が4.3倍、日本が4.6倍、ドイツが3.8倍、イギリスが6.8倍などとなっている。一方で、新興地域となると中国などを含むアジア地域では、2.8倍と比較的高い数値となっているが、それを除けば、ラテンアメリカが1.5、ロシア・東欧が1.4倍と、いずれも2倍を下回っている。このように、新興国の金融市場は、今後、発展の余地を大いに残している。

1990年代後半のアジア通貨危機の時と違って、現在、アジア地域は、多額の外貨準備を保有しているが、金融システムに関しては、まだまだ、発展途上である。高い成長が続いているとはいえ、金融システムの脆弱さゆえに、サブプライムローン問題が、思わぬ形で影響してくる可能性も否定できないため、世界全体が、リスク評価や管理に関して十分に再考した上で、新たな収益機会を目指して、新興地域成長マネー供給システムを再構築すべきである。余ったお金を新興国の成長にうまく融通できる仕組みを確立できれば、世界は再び、経済・金融両面の拡大を享受できる時期が訪れるであろう。

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