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十一面観音菩薩に想う

2008年01月08日

菅原 晴樹

どうしても京都、奈良の紅葉が観たくて、のぞみに乗り込みました。

京都駅からまずは南禅寺へ向かいました。石川五右衛門で有名な三門に上ると東山が一望のもと、山を覆う錦繍を満喫することができました。それから詩仙堂、曼珠院を巡り、「床紅葉」の岩倉実相院へ向かおうとしたところ、突然、京都北山特有の時雨(しぐれ)に出会いました。思いのほか強い雨のため、あきらめました。

翌日は、思い切って藤原鎌足を祀る奈良桜井の談山神社(因みに「たんざんじんじゃ」と読み、「談山」とは中大兄皇子と藤原(中臣)鎌足が蘇我入鹿を倒す密談をした山の意味とか)へ。ちょうど40年ぶりに十三重塔の桧皮葺屋根を葺き替えたばかりで新しくなった塔が紅葉の色とよく調和していました。ただ、奥深い山の中とはいえ紅葉見物の人たちの多かったこと。

桜井駅へ戻る途中、立ち寄ったのは談山神社の別院として創建された聖林寺。談山神社を参拝した人のほとんどは素通りです。ここには里山風景の山道の途中にある寺に十一面観音菩薩立像がひっそりと祀られているのです。もとは近くの寺に安置されていたそうですが、明治の廃仏毀釈の際、この寺に移されたのだとか。あのアーネスト・フェノロサが激賛し、和辻哲郎も名著「古寺巡礼」の中で天平彫刻の最高傑作と称えた国宝です。琵琶湖湖東の渡岸寺(向源寺)の十一面観音菩薩とともに心休まる仏像です。本堂からは遠くに穏やかな山稜を持つ三輪山も望める奈良らしいお寺でした。

それから大和葛城の二上山の麓にある当麻寺を訪ねました。「当麻曼荼羅」で有名ですが、お目当ては現存する最古の双塔の三重塔。西ノ京薬師寺の東塔、西塔とは趣が異なり、小高い山を背にして木々に囲まれた美しい三重塔です。中之坊の庭園は東塔を借景として鮮やかな紅葉が心の字の池に映えていました。

ふと頭を過ぎったのが「高齢者の生活不安」のこと。この一年、わが国の高齢者を取り巻く不安が一層高まりました。

まずは、何と言っても「年金記録問題」です。2月に発覚してから未だ解決の見通しも立っていません。12月17日から約一年かけて「ねんきん特別便」が国民一人ひとりに送付されます。これで問題解決できるとは到底思えません。ただし、特別便を受け取った方はとにかく内容を確認して「疑わしきは自ら申告」を。

次いで、「年金未支給問題」が顕在化しました。企業年金連合会、厚生年金基金、国民年金基金連合会そして中小企業退職金共済でも発覚しました。

他方、年金の財源問題が今後の大きな焦点となります。2009年度までに基礎年金の国庫負担を50%に引き上げることになっていますが政府・与党は消費税増税によってその財源を確保することを想定しています。年金受給者は、既に年金保険料を納め終わっているわけですが、今後、物やサービスの提供を受ける際にさらに年金給付の一部を負担する仕組みとなるようです。

そして、物価、特に生活必需品の値上げです。原油、小麦などの原材料価格の高騰で食品、公共料金の値上げが2007年後半から2008年前半にかけて目白押しです。おおむね10%程度の値上げですから、高齢夫婦無職世帯の消費支出月額25万円の約40%が生活必需品関連ですので、ひと月に最大1万円近い影響も予想されます。年金額が値上げ幅にリンクして増えない以上、今後、年金受給者にとっては脅威です。

さらには、医療制度の改正です。2008年4月から75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度がスタートします。保険料は都道府県ごとに決定されますが、高齢者にとって負担が増えることは間違いありません。

2007年はサブプライム問題を初めとして内憂外患の一年でした。2008年は安寧の年でありますように。穏やかな日差しの中、北野天満宮の梅の香で春の息吹を感じたいものです。
 

奥山に もみぢふみわけ 鳴く鹿の
声きくときぞ 秋はかなしき (古今和歌集 よみ人しらず)

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